【第4回】「言い訳なんていくらでも見つかる」医師・マダミス作家ナズナさんが伝えたい「とにかくやってみる」で人生が変わった話
東大理三卒の医師は、なぜマーダーミステリー作家になったのか。連載の頭に掲げた問いに、いよいよ答えが出ます。
医局を離れ、時間を思うように使えるようになったナズナさんがいま夢中になっているのは、マーダーミステリーのシナリオを書くこと。
その理由を聞いていくと、劇的な転身の話ではなく、もっと地続きの、誰にでも起こりうる話が見えてきました。最終回、どうぞ最後までお付き合いください。

ナズナさん
フリーランス医師/Kindle作家/翻訳家/マーダーミステリー作家
東京大学理科三類(医学部)を卒業後、医師として臨床の現場や研究に従事。2024年に医局を離れ、現在はフリーランス医師として働きながら、マーダーミステリー(マダミス)作家としても活動している。
2023年、初の著書「勇気を出して推しのKindle作家に会いに行ったら人生変わった」をkindle出版し、作家デビュー。2024年には初のマダミス作品「医者か死神か」を発表した。現役医師ならではの知見や視点を物語に取り入れ、ノベライズ版「四者の告白」やスピンオフ短編も執筆。文学フリマ東京への出展など、創作活動の幅を広げている。最新作はマダミス「死者は記憶で蘇る」(寺澤伸洋氏との合作)。
2冊のKindle本を書き切って
――医師の仕事以外では、今どれに一番力を入れていますか?
マダミス制作ですね。
kindle出版も楽しいのですが、去年「大本命本」としてエッセイ2冊目「FIRE 子育て中の女医が医局を辞めてサイドFIREに至るまで」をリリースして、「もう出し切ったな」という感覚がありました。
そして、「これからはマダミス制作だ!」と思うようになりました。
- もともとは翻訳家の夢を叶えたくてフリーランスを目指すようになり、
- kindle出版と出会ったことで執筆の楽しさに目覚めると同時にkindle翻訳家として長年の夢を叶え、
- マダミスと出会い、マダミスを遊んだり作ったりしながらkindle出版で書きたいことを出し切った今はマダミス制作に完全集中
やりたいことはやった後に現れる
こうして振り返ると、もともと自分の中になかったものが「やりたいこと」として台頭してきて、それを達成するうちにまた新たな出会いがあり……という変遷をたどっていて興味深いですね。
「新しいものに出会うこと」も「自分が本当にやりたいことは何か知ること」も、仕事に追われる人生では難しかっただろうなと思います。
今の生き方を選んで本当に良かったです。
今はマダミス制作ですが、これからまた新しくチャレンジしたいことが出てくるかもしれないと思うとワクワクしますね。
身バレ待ったなし!
――Kindle本2冊とも拝見しましたが、医局の内情から家庭のことまで、かなり赤裸々な内容になっていると思いました。書くことに迷いはありませんでしたか?
途中で吹っ切れました。私のことを知ってる人が読んだら身バレ待ったなし!というレベルでもう赤裸々に綴りましたね(笑)
誰に読まれて、どう思われてもいい。そう自分に言い聞かせながら書き切りました。
どっちみち夫、義両親、実母にはペンネームや作品を教えていますし、学生時代の数少ない友人や医局で珍しく心を許せた先輩後輩にも同様です。
kindleの個人作家のエッセイなんてほとんど読まれないし、仮にペンネームを教えていない医局や学生時代の知人が読んだとしたら、そこまでリーチできたということで、むしろめでたいです。
2冊目を書いた理由
――2冊目は15万字の大作でした。書こうと思ったきっかけは何ですか?
1冊目「勇気を出して推しのkindle作家に会いに行ったら人生変わった」を出したのは、医局を辞める決断をする直前。主に翻訳家という夢にフォーカスを当てて書いたものです。
医局を辞めるという大きな決断に至るまでの道筋や実際に辞めてどうだったかも含めて、キャリア・人生全体というもっと広い視点で書き残したい。
そんな想いで医局を辞めた直後から書き始めましたが、何せ大作すぎて構成が固まるまでだいぶ迷いました。
あと締め切りのない自由さゆえに、途中でマダミス制作など別プロジェクトにかかりきりになって筆が止まったりもしながら、完成まで1年半もかかりました。

マダミスとの出会いと制作
マーダーミステリーとは
参加者がそれぞれ物語の登場人物になりきり、事件の犯人を推理する体験型のゲーム。参加者の中に犯人役がいるのが特徴で、それぞれが秘密や目的を抱えたまま、話し合いや情報交換を通じて真相に迫っていきます。
ひとつの作品にかかる時間は2〜3時間ほど。真相を知ってしまうと同じ作品は遊べないため、「一生に一度きり」の体験とも言われます。専門店やオンラインで遊べるほか、シナリオを購入して仲間内で遊ぶこともできます。
――マダミスと出会ったきっかけは何ですか?
医局を辞めるタイミングで、寺澤さんに「僕が作ったマダミスをやってみない?」とお声かけいただいたことです。
寺澤さんの作品はこちら>>>「真実を言わないことは嘘っていわないんだよ、と君は静かに微笑む」
そもそもマダミスというものの存在も知らず、人狼のような騙し合いゲームにも苦手意識があって楽しめるのか不安でしたが、やってみたらめちゃくちゃ楽しかったです!
その後、寺澤さんのマダミス仲間にも加えていただき、オンライン/パッケージ/店舗公演とさまざまな形態でマダミスを楽しんでいるうちに、自分でも作ってみたくなりました。

登場人物を全員医者にしてみたら
――いざ作るとなった時は、すんなり物語はできましたか?
まずはオーソドックスなものを……と、アイデア帳を広げましたが、最初はキャラクター作成もストーリーも全然進みませんでした。
でも、登場人物を全員医者にしてみた途端、スムーズに回り出しました。
まさにキャラクターたちが息を吹き込まれたかのように勝手に動き出し、それとともにストーリーもどんどんできあがっていきました。不思議な感覚でしたね。
これが後の初作品「医者か死神か」になります。
自分のマダミスがプレイされた瞬間
――最初の作品「医者か死神か」を作るときは、どれくらい時間がかかりましたか?
方向性が見えてから1ヶ月で書き上げました。
先に友達に声をかけてテストプレイの日程を決めてしまい、「絶対にその日までに仕上げねば!」と締め切り効果でがんばりました。
――初めて自分の作品がプレイされているのを見た時は、どうでしたか?
皆の議論を聞いてるのがめっちゃ楽しくて、音声ミュートにして裏で爆笑してました(笑)
マダミスとしてもちゃんと成立していてひと安心。大筋に変更はなく、皆のフィードバックを参考に細かい調整だけして4人用2時間のオンラインマダミスとしてBOOTHでリリースしました。
テストプレイに協力してくれた友人たちに感謝です。

「死者は記憶で蘇る」の推しポイント
――ご自身の作品の「ここが推し」というポイントを伺ってもいいですか?
最新作は寺澤さんと合作した「死者は記憶で蘇る」。店舗公演で体験できる6人用、3時間のシナリオです。
ネタバレになるといけないので詳しく言えないのが残念ですが、複数の要素があり、初心者から上級者まで楽しめる構造になってます。
ですので初心者の方も臆せず飛び込んでみてほしいですし、上級者の方もぜひ挑戦してもらいたいです!楽しんでもらえること請け負いです!
「作る側になる」という発想は、どこから
――私自身もマダミスが好きでしたが「作る側になる」という発想はありませんでした。ナズナさんは、なぜその想いが生まれたんですか?
マダミスはミステリー小説に近いので、子ども時代に小説らしきものを書き散らしていた私にとって、作る側に回るのは自然な流れだったような気もします。
とはいえ、ミステリーは書いたことがなかったので、トリック、アリバイ、動機など作り込めるか、ゲームとして成立する推理導線にできるか、未知数でした。
できるか分からないけど、とりあえずやってみた。そしたら作れた。
ということで、兎にも角にもやってみることが大事なのかな、と。

つまらない生活が全部変わった
――お医者さんで全然人生満足しちゃいそうな気がするんですが、そこで満足せず、次に挑戦するようになった原動力はどこにあるんですか?
広い世界を知り、やりたいことが見つかった、というのが一番ですかね。そしてそのきっかけとなったのが我が子の存在でした。
医者になってからずっと、家と職場の往復だけのつまらない生活でした。友達もほとんどおらず、趣味は手芸・お菓子作り・読書・映画鑑賞と1人で完結するものばかり。
でも、そんな生活に満足していました。
不妊治療を始めてからはクリニック通院と不妊治療ブログを読むのが趣味(?)に加わり、自分でもブログを書くように。
ここで少し世界が広がり、執筆にも触れることになりますが、キャリアと不妊治療で頭がいっぱいで、自分のやりたいことなんて考える余裕もありませんでした。
もし我が子に会っていなければ、漫然と医者の仕事だけする生活を続けていたと思います。やりたいことがないので、特に不満にも思わなかったでしょう。

私は何がしたいんだっけ?
念願の我が子を抱っこしながら「この子は将来どんな大人になるのかな?将来の夢は叶うかな?」と考えていた時、ふと思ったのが「そういえば私は?何がしたかったんだっけ?」。
自分が何をしたいのか、全く考えることなく日々過ごしていたことに気がついて愕然としたのを覚えています。
そこで翻訳家の夢を思い出し、のちに寺澤さんと出会ってkindle出版やマダミス、FIREの世界を知り……と、今までお話ししてきたとおりです。
医療に全てを捧げるのも尊い生き方だと思いますし、そうやって今の医療を支えている医師をはじめとした医療従事者の皆さんには感謝しています。
でも、他にやりたいことがある今、私は自分の能力を医師業以外にも活かしたいという気持ちで突き進んでいます。

やりたいことリストとこれから
――今、一番やりがいを感じるのは、何をしている時ですか?
昨年末に娘を出産してからは特に子どもたちの様子を見ているのが幸せですね。不妊治療に難航していた私が今や二児の母なんて不思議な感じもします。
私個人の活動という点では、マダミスを作っている時間が一番楽しいです。
今年4月に「死者は記憶で蘇る」をリリースした後も、寺澤さんと店舗マダミス2作目を練り始めたり、個人の2作目、3作目を作ったりしています。
スムーズに進まないこともありますが、うんうん唸っている時間も含めて楽しめています。マダミス制作はいくらでも続けられる気がしますね。
10個の「やりたいことリスト」
――これからやってみたいことは、ありますか?
まだ色々あります。
「やりたいことリスト」をスマホのメモ帳に書いていて、達成したらチェックを入れています。
大本命本を出版する、寺澤さんと一緒にコンテンツを作る、店舗にマダミスを卸す、好きな作家さんに会う、ワーケーションしてみる、息子にエプロンを作る、などなど雑多な感じではありますが、10個ほど書いていました。
「店舗にマダミスを卸す」を達成したことで一度全部チェックがつきましたが、新しく思いついたことはリストにその都度書き加えています。
今はマダミス制作が活動のメインということもあり、やりたいことリストの大半がマダミス関連です。

大学生へ:色んな選択肢があるよ
――キャリアに悩む大学生に、アドバイスをお願いします。
私は会社勤めの経験がないので、会社員としてのキャリアに直接役に立つようなアドバイスはできないのですが、何か言えるとしたら、「思い込みにとらわれず、視野を広く持ち、色々な選択肢があることを知ってほしい」。
今や転職や独立も珍しくなくなりつつあるようですが、会社を「一度入ったら定年まで勤め上げないといけない場所」と思い込んでしまう人もいるのではないかと思います。
私が大学院を「一度入ったら卒業しなきゃいけない場所」と思い込んでいたように。
本は凄い
「違うと思ったら1年でも2年でも辞めていい」という恩師の言葉は私を思い込みから解放すると同時に、大事なことを教えてくれました。
- 思い込みにとらわれている間は、自分ではそれを自覚できない
- 最初から頭にないものは選択肢に上がらない
だからこそ色々な選択肢があることを予め知っておいてほしいですし、そのための手段のひとつが読書なのだと思います。
先人たちの知見を手頃な値段で手軽にシェアしてもらえると考えると、本ってすごい媒体ですよね。
当時は医師のキャリアについての本や体験談は見当たらず、今の働き方にたどり着くまで私も1人で悩み考えました。
人それぞれ状況は違いますし、自分の頭で考えることが大事だったとも思いますが、「こんな生き方もある」と伝えたくてkindle出版しました。
医師に限らなければキャリア関連の本はたくさんあると思います。ぜひ、色々読んでみてください。
思い込みを壊し、視野を広げてくれる本もきっとあるはずです。

とにかくやってみる!
――人生で大切にしている言葉があれば、お伺いしたいです。
「とにかくやってみる」に集約しますかね。
頭で考えることも大事ですが、実際に行動して人生が好転したので。
行動しない言い訳なんて探せばいくらでも見つけられますが、「とにかく一度、行動してみる!」これが大事です。
やる人と、やらない人の違い
――「やってみよう」と思える人と、思えない人の違いは何だと思いますか?
- 自分の直感を信じられるか
- 行動してうまくいった成功体験
- 周りの人達の行動力
色々あると思いますが、このあたりが関係していると思います。
私自身、寺澤さんの交流会に初めて参加するときはめちゃくちゃ不安でしたが、告知を見た瞬間の「ビビッ」ときた感覚と、「これに参加しないと後悔する!」という確信に従って思い切って参加。
これが一番の転機となり、今があります。
こういう成功体験があると、次に何かチャンスが来た時に「やらない後悔よりは!」と踏み出せるようになります。
寺澤さんのように「やればいいじゃん!」と背中を押してくれる人が身近にいるならなおさらです。
寺澤さんだけでなく、FIRE界隈の方々は基本的に行動力がある人が多いので、一緒にいると刺激を受けられます。

ナズナさんが選ぶ、大学生におすすめの3冊
――最後に、大学生におすすめの本を3冊ほど挙げていただけますか?
やっぱり推しの寺澤さんの本を挙げたいと思います。
「FIRE父さんが息子に贈る47の教え」は寺澤さんが20歳の息子さんに伝えたい人生訓をまとめたもの。
30代の私も自分事として読んで刺さりまくったので、大学生の皆さんはドンピシャだと思います。
「GAFA部長が教える自分の強みを引き出す4分割ノート術」はタイトル通り、これからキャリアを切り拓く上で大切な「自分の強み」の把握ができます。
本文中の「置かれた場所で咲かなくていい」という言葉にも救われる思いがしました。
「40歳でGAFAの部長に転職した僕が20代で学んだ思考法」は寺澤さんが元上司から学んだロジカルシンキングについてまとめた本。
教えの内容自体ももちろん素晴らしいのですが、元上司に恩返しするべく「この教えをいつか本にします」という約束を果たした寺澤さんの情熱も見所。
本当に何回でも読み直したくなる名作オブ名作。かなりお勧めです。
(全4回・完)
編集後記
凄まじい行動力に、取材させていただいた間、ずっと圧倒されていました。
医者という一生困らない職業に就いた後に次のキャリアへと進んだのは、執筆活動やマダミス制作に興味があったからだとお話してくださいました。好奇心によってこれほど前に進めるのかと、そのエネルギーに感動しました。
やってみないと分からないので、とにかく行動してみる。説得力がありすぎるお言葉に感銘を受けたと共に、一歩踏み出す勇気をいただきました。
(探究ゼミ:安村)
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