#2 国際協力の「プラチナチケット」は外務省?!外務官僚を目指すあなたへ伝えたいこと

【進藤弘騎さん】

高校生の頃から国際協力に関して大規模に関わりたいと考え、大阪大学卒業後に外務省に入省。スペインでの研修を経て、主に中南米や紛争地帯での業務に従事。

退省後は国連職員として、ヨルダンで難民支援活動にも従事した。

外務省時代のキャリアの変遷

ーー外務省に在籍していた期間と赴任地を改めて教えてください

在籍は約9年半です。

1年目は本省で研修をして、本省研修後の外交官はみんな2~3年間語学研修できる制度があります。自分は研修語がスペイン語だったので、スペインに配属されました。

肩書きは外交官補としてスペインに駐在となるんですけど、在外研修で基本的には語学の勉強を中心に2年間取り組みました。

いわば、国費留学みたいな感じになるのですが、2年間スペインに行った後、ホンジュラスとアルゼンチンに2年ずつ赴任して、その後はアフガニスタンに赴任しました。

元々、国際協力に関心があって、9.11が自分の人生に強く影響する原体験になっている部分もあり、9.11に密接な関わりがあったアフガニスタンにどうしても行きたかったんです。

ですので、自らアフガニスタン赴任を希望しました。

アフガンでの2年間の赴任が終わったタイミングで、外務省を退職しました。

国際協力の「プラチナチケット」は外務省

スティーブ・ジョブズの有名なスピーチに、"Connecting the dots"という言葉があります。

自分が興味関心を抱いて起こした過去の行動が事後的に、思いもよらない出来事に活かされるという話で、自分自身、外務省時代を振り返って実感していることがあります。

各業界において、「プラチナチケット」があると思っています。

国際協力におけるプラチナチケットは、外務省。国際協力を考える上で1番上流に位置していて、政策を考える組織なので、全体を見渡すことができる。

国際協力に携わるという一点から言えば、他にもJICAとか、NGOもあるし、民間企業の開発コンサルタントや商社など、国際協力的なプロジェクトに携わることはもちろん可能です。

さまざまな関わり方があって、それぞれ長所短所がありますが、振り返ってみて、全体を俯瞰できたという点で外務省は良かったなと思っています。

国際協力へのプラチナチケットは外務省だけれど、製造だったらトヨタかもしれないし、ITだったら、情報だったら…と、それぞれの業界で「この分野だったらここが一番全体を俯瞰できる!」プラチナチケットがあると思うんです。

当時は自分も気付いていませんでしたが、国際協力のプラチナチケットは外務省だと思うので、オススメしたいです。

外務省時代に達成感を感じた瞬間

ーー外務省時代に達成感を感じた仕事があれば教えてください。

外交官あるあるなんですが、歴史的な場面に立ち会えたときに、達成感を感じます。

アルゼンチンに居たときは、59年ぶりに日本の総理(当時の安倍首相)がアルゼンチンを訪問する、歴史的な局面に関わることができました。

世界一危険な国ホンジュラスの日本語学校

仕事上でインパクトを残せたなという意味で、印象に残っているのは、ホンジュラスで日本語学校を再開させたことです。

赴任した2013年当時、ホンジュラスの治安はものすごく悪く、青年海外協力隊の人たちも、一気にホンジュラスから撤退していました。

青年海外協力隊の人たちが支えていた日本語学校も、治安の悪化と共にボランティアがいなくなったことで全部潰れてしまっていたんです。

元々、その日本語学校には生徒がたくさんいましたし、当時のアニメブームも相まって、日本語学校へのニーズは高かったんです。

実際、ホンジュラスの首都テグシガルパでいろいろなイベントに出向くたび、「日本語の勉強をしたいのだけど、勉強するところがない。助けてくれ」といった要望を、日本の外交官として聞くこともありました。

そこで、必要とされる関係各所へ連絡を取り、教師は日本に留学経験のあるホンジュラスの人に担当してもらい、教材は大使館で用意するように手配しました。

上からの指示というより、自分のイニシアティブと前任から引き継いだ想いで学校を再開させた。結果的に1年で約400人の学生が集まりました。半年ほどの期間で、目に見える具体的な結果を出せたことに、達成感を感じました。

役所の基本は前例通り

ーー「自分でプロジェクトを動かしたぞ!」といった感覚があったということですか

自分で考えて、クリエイティブにやっていくプロジェクトとしては、初めて上手くいった経験だったので、印象に残っています。

プロジェクト自体は、外務省1年目から担当させてもらえますが、それは、今まで先輩たちが継続してきたプロジェクトを引き受けるような感じ。ある程度決められた、「お作法の枠内」でやっていくものです。

もちろん、それも仕事の学びとしてとても重要です。特に官僚は、お作法に従うような仕事も多いわけです。

そのような中で、ホンジュラスの日本語学校再開は、作業工程から自分で考えたものでしたのでかなりクリエイティブな仕事でした。

51対49で勝つ」外交における基本的な考え方

ーー外務省の考えに51対49で勝つというものがありますよね。

そうなんです。国際政治の場ではよく言われますが、外交は圧勝してはダメというのがあります。

日韓関係とか日中関係で言うと、ほぼ永久的に近隣国なわけです。

その中で、一つ一つの交渉は、できれば、こちらが51ポイントで勝って、向こうには49ポイント取ってほしい。さらにその49ポイントは相手にとっては51ポイントであることが望ましい。

つまり、お互いが51対49で勝ったと思えるような勝負が一番いいんです。

外交官と軍人の違い

もう一つ、対比で面白いなと思った逸話があります。

軍人は初対面の人と会ったときに、その人が敵か味方かを判断すると言われています。

自分と敵対するようなバックグラウンドを持ってるか、どういう性格かとかを見て、敵か味方かを区別するそうです。

一方、外交官は誰と会っても、どうやったら友達になれるかというのを、考えると言われている。それも結構外交官ならではというか、外交官らしいなと。

だから、日本は批判されることもあるけど、米国ともうまくやろうとしてるし、対極の中国ともうまくやろうとしてる

他のグローバルサウスと呼ばれるような新興国(インド、インドネシア、トルコ、南アフリカ、等)とも仲良くしようと努力している。

それをぜひ知ってほしいです。  

日本の外交と軍事力

日本の外交は、難しい制約がいろいろあります。特に軍事力について、戦争を外交の延長線上で捉える人もいます。

実際、厳しい交渉になればなるほど、背後に「じゃあ戦争しましょうよ」と言える体制があるか、どこまでハードな交渉態度で挑めるかがで、かなり変わってきます。ただ単に戦争ができないだけじゃなくて、外交の最終手段みたいなのも全部失った状態で交渉に入らないといけない。

これだけでも不利な立場だけど、さらに日本は単独で行動しなきゃいけない

例えば、EU加盟国だったら、EUで一丸となって外交政策を考えられるし、中南米は友好国同士で似ている考え方や価値観を共有できているっていう前提で一緒に行動できる。

1カ国でいろいろ考えて発言するよりも、10カ国みんなで考えたことを、自分たちはこうしていきたいって発信するほうが圧倒的に強い。10倍のパワーがそこにはあって、国連総会とか国連の組織では、「数の力」って影響力が強いんです。

日本がアジア諸国と価値観を全部共有できているかというと、そうとは言えない。

アジアは他の地域に比べて価値観が多様で、良く言うとダイバーシティがあるけど、悪く言うと一つにまとまることができない。

そのアジア地域の中で日本はかなり先進国になっていて、場合によっては西側に含められたりすることもあるポジションなんです。これは、アジアの中だと結構異端というか独特なポジションなので難しいと思います。

そんな難しい立場にいながらも、日本の外交は頑張っていると私は思います。

外交官として「仕事の醍醐味」

ーー外務省の外交官として働く醍醐味はなんだと思いますか

外交官の仕事の醍醐味は、赴任地に応じて「レガシー」を残せることです。

アメリカの大統領が、自分の任期が終わりを迎える前に大きなことを成し遂げてレガシーを残すみたいなことをやると思うんですけど、そんな風に外交官も、任命された土地で自分なりの遺産を残せるチャンスがあるんです。

ホンジュラスで残したレガシー

自分の場合はホンジュラスでの日本語学校再開が明確なレガシーで、誇りに思っています。

アルゼンチンに赴任していた時は要人往来がすごく多かった。安倍総理も含め、他のいろんな政治家の方々も来訪して、政治的には楽しい時代でしたが、自分のレガシーなんて考える余裕はほとんどなかったです。

ホンジュラスに思い入れがあるのは、自分のイニシアティブで動いてプロジェクトを成功させた実感があったからだと思います。

やはり、外交官の醍醐味としては、レガシーを残せることに魅力を感じます。

外務省志望のみなさんへ

-ー外務省を目指す大学生にアドバイスをお願いします!

胸を張って言えるのは、外務省は「唯一無二」ということ。

日本外交が出来るのは外務省だけです。日本外交にも文化、政治、経済などいろんな側面がありますが、日本外交に携わりたいなら外務省はこれ以上ない環境です。

興味ある人は、ぜひ頑張って勉強して目指してください!

[ 文:渡邊舞 / 編集:吉中智哉]

[撮影:梨本和成 / デザイン:石橋天知 ]

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探究ゼミ編集部
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