#4 豊かな日本で死なないためのアイデンティティ確立方法

少し前の日本では、生きているだけでアイデンティティが確立できていた。良くも悪くも人同士が繋がり、地域コミュニティがあったからだ。

が、今の日本はそうではない。

生きているだけでは自分が何者かわからない。そんな社会の中でぼくたちはどう生きるべきか?

幸福で不幸な日本で生きていくため、自分の軸の作り方を伺いました!

【鈴木光悠 すずきこうゆう】

早稲田大学卒業後、日本IBMに入社。数年間働いたのちに独立。

現在は株式会社Sphiaの代表として、データ分析の会社を経営。主な業務内容は、医療系のデータ分析と組織の業務効率を上げるアプリケーション開発。

豊かさの中での絶望に効く薬

ーーなんで豊かな日本で、年間2~3万人も自殺するんだと思いますか?

自分が何者なのかわからない社会なのが、原因の一つだと思います。

例えば少し前の日本には、家制度があった。家や地域に所属してて居場所があったし、立場が変わることは少なかった。

当時は、何もしなくてもアイデンティティの確立ができていた。今は自分でアイデンティティを勝ち取っていかないといけない。

アイデンティティがないと強いことが価値になる

その人らしさに基づく人間関係や地域コミュニティがないと、強いかどうかしか基準がなくなってしまいます。

そうすると、お金を持っているかとか、立場があるかどうかとか、そういうのが唯一のアイデンティティになってしまう。

強いかどうかだけではない観点からアイデンティティを確立して、自分の存在意義を見出す。そうすれば、自殺も少なくなくなると思います。

死なないためのアイデンティティの確立方法

アイデンティティの確立には少なくとも二つ要素があります。

1つは、個人として何を追求するか

もう1つは、誰と関わるかです。

私にとっての生きる目的とコミュニティ

私のやりたいことは、AIやテクノロジーを使って、「全ての人の居場所がある社会をつくる」ことです。そのために生きてるといっても過言ではありません。

一方で、僕は妻の夫であって、息子の父親であって、父親の息子でもある。そんな風に、周りの人間関係の中でも存在しています。

その両方が、アイデンティティを構成しています。

どちらかだけでもあれば、志半ばで死ぬのは悔しいから自殺しないし、誰かが悲しむから自殺しない

そんなふうに思えると思います。

社名に込めた想い

ーー自分の人生の目標を見つけたのはいつでしたか?

会社の名前を付けた時です。私の会社は株式会社Sphiaといいます。

Sociodynamic Perpetual Harmony thorugh Intelligence and Art(ソシオダイナミック パーペチュアル ハーモニー スルー インテリジェンス&アート)の頭文字をとっています。

編集部注*

--直訳すると「知性とアートによる社会力学的永続的調和」

社会の一番綺麗な状態が、この状態だと思っています。

絶対不変の理想的な社会ってのは現実的にはあり得ない。そうであれば、社会の状態ってのは常に変わっていくダイナミック状態なはずです。

ダイナミックに動いているけど、めちゃめちゃ不協和音が起こってるわけでもない。

それぞれの生き方があって、それが一応調和し合って(ハーモニーに)なってる。そんな状態が良い社会だと信じています。

クラシック音楽では、不協和音が協和音に変わることを「解決」といいます。不協和音が起こっても、「解決」があればハーモニーは続いていく。

動きがダイナミックであれば、どこかに不協和も出てくる。だけどそこから、解決によって調和に導くことができる。それを知性とアートによって実現していく。

そんな意味が込められています。

ーーその考えに至る経験などはありましたか?

小学校時代の人間関係から、それぞれの居場所について考えたことが契機かもしれません。

人に気にかけられていない、自分の居場所が無くなりそう、そんな時に人は悪に走りやすい。逆にいえば、居場所があると感じていれば、避けられる争いもある。

みんなが心から「ここにいて大丈夫だ」と思える社会をどこまで広げられるか。

全部広げられたら、僕も生きててよかったなと心から感じるはずです。

なぜ日本の幸福度は低いのか

ーー日本の幸福度は低いと言われていますが、何が原因だと思いますか?

海外経験と欧米の事例から考えると、親との時間、周りの人間から受けるフィードバックに差がある可能性があります。

ここでいうフィードバックっていうのは、例えば何かを食べておいしそうにしたときに「あなたはこれが好きなんだね」と言われたりすること。

悪いことをしたときに「それはやっちゃ駄目だよ」って言われるのもフィードバックだし、周りからの反応っていった方がわかりやすいかもしれません。

その種類、量、幅、人数が日本の、特に都市部では少ない気がしています。

条件付きの愛情

同じ日本でも、島根に行ったときは、地域コミュニティがあって、当たり前に近所のおじいちゃんと子供が話してみたいのがありました。

一方、都心部の子ども達にはそういうのが少ない。コミュニティ部分が薄く、親と子の関係だけがより濃くなっている。

さらに都市部は受験熱も高かったりするので、結果を出さないと親から承認されない事態も発生する。

そうすると「存在するだけでいい」とはなかなか思えず、「できなかったら自分には価値がない」みたいに思う子も出てきます。

僕は何が好きなんだろうか、何を目指してるんだろうか、何のために生きてるんだろうか。そんことを悩んで、周りの人と承認し合う。

その意義は大いにあると思ってます。

[文:ことね / 編集:吉中智哉]

[撮影:梨本和成 / デザイン:舩越英資 ]

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探究ゼミ編集部
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