「成果がでるかわからないけどやってみる」私が企業との共同研究やり続ける理由 #2
前回は、埼玉大学の杉浦先生に「音声研究とはなに?自分達の生活にどう関わっているの?」を伺いました。
>>#1「音楽にハマったら研究者になっていた」金髪バンドマンが大学助教になったワケ
今回は、私たち学生がよく知らない、大学教員の日常についてお話を伺っていきます。
僕らは授業中しか知りませんが、先生たちって普段なにやってるんですか?!
【杉浦陽介(すぎうら ようすけ)】工学博士。埼玉大学 大学院理工学研究科助教。大阪大学工学部卒業、同大学博士課程修了。東京理科大学基礎工学部の助教を経て現職へ至る。専門はAI技術を使った音声認識や雑音除去、声質変換の研究
大学教員は地域の人たちとも仕事をしている
ー今のお仕事でやりがいを感じてる部分や楽しい部分はどんなことですか?
まず一つが、僕のライフサイクルとして、企業の方達と共同研究をやることが多いです。
そういう組織の方と色々やり取りして研究が進んでいくのも楽しいですが、その方々の目的にかなったようなものを提供できて喜んでいただいた時がすごい嬉しいですね。
それがあるから共同研究はもう止められないです、ほんとに。
ーそういうお話ってどこから来るんですか?
埼玉大学が宣伝してくれてるのもあるんですが、企業の方々のネットワークで自然と話が広まっているみたいです。「あの研究室だったら何とかしてくれるぞ」みたいな笑
それで直接声をかけて頂いて、仕事がくることが多いです。
ー大学の信用もあると思いますが、何かしらやってくれるだろうっている信頼も積み重ねていった結果ですね。
そうですね。毎回真摯に要望に応えてこうとしているだけなので、それで自然と人のネットワークで、自分たちの成果が広がっていくってのはめちゃくちゃ嬉しいですね!
研究は楽しいけど、うまくいくとは限らない
ー今まで関わった共同研究で「これはやったな!」みたいなプロジェクトはありますか?
これはね、あります。
介護向けというか高齢者向けのアプリで、人の温度・体温を計測するようなカメラを使って人が転倒したかどうか検知する装置を開発しました。
普通だったら、映像や音声で危険を検知するのですが、プライバシーの観点からNG。通常の機器が使えないので、赤外線センサーを使って体温を測り、危険な状態かどうかを検知しようと試みました。これがめっちゃ難しかった。
通常のカメラだったら、その人がどうなっているか視覚情報で取得できる。それが赤外線カメラだと「ボヤっと何かいる」ぐらいしか情報が得られない。
そんな中ではありましたが、深層学習の技術だったり、今まで培ってきた解析技術ってのを色々と組み合わせて、すごい精度の良いものができました!
その時はもう本当にもうめちゃくちゃ嬉しかったですね。
ーそれは実際現場でも使われるようになったんですか?
それがですねー、ここがこの話で一番悔しいところです。
この開発はいわゆるベンチャープロジェクトとして、埼玉県の中小企業の支援してくれるような、基金に応募しました。申請したんですが、通らなかった…。
なので、技術や研究の結果としてのモノはあるが、実際に売り出せる状態ではありません。実用化のためのお金があればって感じですけど笑
-何がダメだったんですかね?
そこが、ちょっと分からないんですよね!
そういうスタートアップの資金って、いいアイデアとか製品が集まってくるんで、その中で負けちゃたんだと思います。
でもなかなかいいものができたんで、ちょっと悔しかったですね。
-先生の専門は音声なのに、赤外線の話になったり、色んなお話が来るんですね!
そうなのです!
なんで好き嫌いせずに、共同研究でいただいたテーマは、全てイエスマンでやらしてもらってます。色々な専門家が集まって、いろんなテーマに取り組んでいます。
研究はうまくいくかわからない、それでも次に繋がっていく
ー共同研究ってどれくらいの割合でうまくいくモノなんですか?
僕の共同研究の立ち位置がやや特殊なので、最後までいくケースがほとんどありません。
普通、共同研究は製品化まで見越したような開発がされていきます。一方、成果出るかわかんないけどちょっとやってみよう、という共同研究もあります。
そういう成果が出るかわかんないけど、やってみたいっていう研究って、どこの大学に持ち込んでもだいたい断られます。成果出るかわかんないから研究できない、そもそも予算もつきにくい、だいたいそんな理由です。
しかし!僕の所属している研究室では、僕も含めてありがたく頂戴してます!
新しいことを始めるって、めちゃくちゃ楽しいんですよね。こんなことできるかもしれないと思ったら、すごくエネルギーが出ます。
最終的に製品になるところまではわからない、そんなチャレンジングな共同研究をやることが多いです。
ー意外にベンチャー気質。
仮に研究が日の目をみなくても、その技術がなくなるわけではありません。1回やってみたものが役に立たなくても、まわり回って違う形で応用できたり役に立ったりすると思います。
-新しいことにチャレンジしてる段階で、ご自体も勉強になるというか。
そうですね。企業さんもやっぱそういう中で勉強したいっていうのも、目的としてはあるので、そういう知識をちゃんと得て、勉強できたっていうのが、一つの成果として、向こうも喜んでいただいているところかなと思います。
無理難題をつっきるのはプライドと意地
-結果出なくて挫折しそうになったこともあると思いますが、どうやって乗り越えてますか?
僕の受ける共同研究のテーマって、本当に無理難題なテーマばっかりなので、心折れそうなことは山ほどあります。
最後は、もう本当に意地ですよね、プライドと意地。
自分の専門分野について考えるときも、「人間とは何か」っていうのを掘り下げて考えたり「声とは何か」っていうのを掘り下げて考えてきたように、深く考えることだけ続けてきました。
なので難しいテーマを頂いた時も、「問題は何なんだろう」「どういうところが問題となってるのか」とひたすら深く考えて、どうにか糸口を見つけてきて、次に進めています。
-無理難題なことも一歩一歩着実に進めてるんですね。
例えば「工場の中で会話すると人の声が全く聞き取れないからどうにかしてくれ」って相談の場合、録音したデータ聞かしてもらうと、工場の音がうるさすぎて人の声が全く聞こえない。
この案件も頂いた時も、録音データを聞きながら「工場の音ってこういう性質あるよね」とか「人の声ってこういう性質あるよね」って感じで、音の性質をちゃんと分析しました。
どうにかこうにか理解できる程度に人の声を取り出せたりしましたが、普通だったら嫌がられるし、断られる相談だったと思います。
-最後まで諦めない。
もうね、諦めるっていうのは、だめですね。諦めない、絶対。自分の信念とプライドを持ってやっています。そこは。
-そういうのやっぱ挑戦するっていうのは、今いらっしゃる研究室の教授の方の方針でもあるんですか。
方針でもあるんですが、お陰様で伸び伸びと研究させてもらってます。
普通の研究室だったら成果が出にくい研究はやりたがらないと思いますが、うちの研究室では「やりーや、自由にやりーや」って。なんでも受け付けるよって言ってくれているので。ほんとにありがたいです。
-1人で研究するよりも、他の人を巻き込んだ方が楽しいんですか?
これはまた何とも言い難い。正直言うと、半々ぐらい。笑
元々僕はこだわりがすごい強い。しっかりと問題を分解して、どういうところが悪いかっていうのを、ちゃんと分析してから進まないと、納得しない。
でも企業の方は、どちらかと言うと成果や結果の方を重視されます。そういうところで衝突する場面っていうのは、あったりなかったり。笑
なので、役割はしっかり分ける。ここは私たちがやる、ここはあなた達がやるっていう。棲み分けをやった上で、一緒に進めていくっていうのが丁度良いと思っています。
-それぞれがそれぞれのプロフェッショナルを発揮するような関係。
そうなんです。お互いの良さを最大限発揮する、そういう関係で進めていくのはすごい好きですね!
次回
杉浦先生インタビューまとめ
[編集:吉中智哉 / 撮影:高橋エリー]