「ご近所の騒音問題をなくしたい!」音の研究者が語るこれからの夢 #3

前回は、企業が関わる共同研究や、杉浦先生にとっての仕事のやりがいについてお聞きしました。

>>#2「成果がでるかわからないけどやってみる」私が企業との共同研究やり続ける理由

今回は、これまでの話ではなく、現在やこれからにフォーカスをあててお話を伺っていきます。

先生!いま注目しているモノ!これからやってみたいことってなんですか?!

【杉浦陽介(すぎうら ようすけ)】工学博士。埼玉大学 大学院理工学研究科助教。大阪大学工学部卒業、同大学博士課程修了。東京理科大学基礎工学部の助教を経て現職へ至る。専門はAI技術を使った音声認識や雑音除去、声質変換の研究

ボーカロイドやVtuberから見えてくる表現の自由さ

-音声とエンタメに応用している例っていうとボーカロイドが思いつくのですが、先生は興味ありますか?

実際研究してます。

-初音ミクから始まり、最近かなり自然になっていると思うのですが、あれってなんでなんですか?

実は、僕も知りたいんですよね笑

初音ミクを代表とするボーカロイドの技術っていうのは、今すごい進歩していて。歌うのはまだちょっと越えるべき壁がある感じですが、文章読み上げぐらいだったら、すごい滑らかに読んでくれるようなソフトも出てきています。

元々ヤマハがイタリアの大学と共同研究をしてきた歴史があったりもするのですが、その技術の核となる部分っていうのがあんまり公開されてなくて、ちょっと分からない部分もあります。

深層学習の技術が発展してきた背景はありますけど、さらに進化して、普通に人間が喋ってるのと相違ないぐらいのもの作りたいなって、いま頑張って考えています。

-音声の専門家からみてエンタメとの組み合わせってどうですか?

ボーカロイド業界も人気ですが、それよりも僕が今注目しているのがVtuber(ブイチューバー)を代表とする、音声変換や音質変換の分野です。

人の声もパーソナリティを表す情報なので、匿名で活動したい人は声から身元がばれてしまう可能性もあります。なので、匿名で活動したい人は変える必要があると思っています。

メタバース的なモノも少しずつ普及していますが、バーチャルの世界で自分らしさを発揮するためには、自分の声を好きな声にして会話したいとか、コミュニケーション取りたいっていう要望って、どんどん増えてくると思います。

なので、自分の声を変える音質変化については、いま実際に研究していますし、今後伸びてくるのかなと思っています。

自分らしさを表現するために技術が使われてほしい

-そうですね、声を変えられるからこそ「バ美肉おじさん」(中身が男性だが見た目が美少女キャラのネット上での呼称)も活動できるわけですもんね。

男性の中にも女性っぽい側面ってありますし、逆に女性にも男性っぽい側面があります。そういうところを表現したいと思っている人って結構いると思います。

ただ、社会的な目とか、狭い人間関係の中で、なかなか自分を表現できないっていう方っていらっしゃると思います。

そういう方へ届くような技術、自分らしさを表現できるっていうような社会になるために、音声技術が使われるのはいいですね。

音質変換に関してはまだまだ精度に伸び代があります。現状はロボットボイスの域を出ていないので、研究分野としてもそこは熱いですね。

-美しい声や伝わる声の研究もされているとおっしゃっていましたが、そこら辺の今後の展開はどうなりそうですか?

そうですね。今、共同研究してる内容でいうと、発声の矯正があります。

筋肉が衰えてしまってしゃべりにくい高齢者の方とか、病気で筋肉がつきにくくなった方に対して、こう喋れば伝わりやすいよっていうようなのを示せるようなアプリを作ろうみたいなことを、病院と一緒にやっています。

やっぱり美しい声とか、伝わりやすい声とか、自分らしい声を出すにはどうすればいいかっていうところのニーズって、結構あるのかなって思いました。

好きを自由に表現できる社会へ

-杉浦先生が、これからやりたいこととか、やろうとしてることはどんなことですか?

よくぞ聞いてくださいました!笑

僕の基本的な研究のモチベーションは「人間の声ってどうなんだろう」とか「美しい声でどうなんだろう」っていうところです。一方、工学という分野上、人に役立つような技術を提供しないといけないっていうところもあります。

そういう工学的な目線でも、やりたいことっていうのがあります。それが、人の表現したいこととか、好きっていう気持ちを、自由に表現できる場を作ることです。それと音の研究がうまく作用できることがしたいと思っています。

具体的に言うと、みなさん音楽を家で大音量で聴くこともあると思いますが、壁が薄いところとかだったら、苦情が来るじゃないですか。そういうのをどうにかなくしたいとか思っています。

自由にどこでも音楽が聴ける環境にしたいと思っていて、壁に装置をピタッと貼り付けると、振動がピタッと止まって、音が向こう側に筒抜けにならない。そういうプロダクトを作りたいと思っています。

-貼り付けたところから先がノイズキャンセリングになるみたいな。

そうなのです。最終的には、壁がなくても向こうに音が通らないようにしたい!

すでにサウンドカーテンって勝手に名前付けているんですけど、これを作りたいっていうのが、現在の夢としてはあります。

自分の好きって言うことを、色んなとこでできるっていうような環境を作りたい。

そのためにはやっぱりまずは、人の声とか、騒音とか、うるさいというものは、どういうものなのか、しっかり知る必要があり、研究する必要があります。

-これは欲しい人いるでしょうね。音楽に限らずいろんな応用が効く気がします!

そうですよね、やっぱり。音楽じゃなくても、アパートとの騒音問題、子育て家庭、近隣の保育園の問題、トイレの消音まで、色んなとこに需要はあると思っています。

自分の関心として、誰に気を遣う必要がなく自己表現をする幅を広げたいってのはあるのですが、それが困っている人たちの助けになるならそれは嬉しいですね!

次回

実は大学の先生も就活してる?!教員のなり方と研究者に求められる資質 #4

前回は、埼玉大学の音声のスペシャリスト、杉浦先生がこれからやりたいことを伺いました。 自己表現をしたい!自己表現したい人をサポートしたい、そんな思いが伝わってく…

杉浦先生インタビューまとめ

埼玉大学助教:杉浦陽介キャリア論まとめ

目次1 第1回:「音楽にハマったら研究者になっていた」金髪バンドマンが大学助教になったワケ2 第2回:「成果がでるかわからないけどやってみる」私が企業との共同研究や…

[編集:吉中智哉 / 撮影:高橋エリー]

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