【第2回】英語も日本語も通じないおばあさま。米大手CAが片言の韓国語と「1枚のブランケット」に込めた、おもてなしの真髄

「自分にとっての普通は、相手にとっての普通ではない」

多国籍なクルーとお客様が混ざり合うアメリカの空。そこでは、日本の常識が通用しない場面も珍しくありません。

第2回では、順さんが大切にしている「異文化理解」のマインドセットと、羽田便で出会ったあるお客様とのエピソードを深掘りします。

第2回では、米大手航空会社で働くCAすなおさんが大切にしている「異文化理解」のマインドセットと、羽田便で出会ったあるお客様との忘れられないエピソードを深掘りします。

言葉の壁を超え、一人の人間として向き合った先にあった「おもてなしの真髄」とは。

Thomas 順(すなお)

17歳で高校の交換留学生として初渡米。帰国後は立教大学を卒業し、日本で一般企業に就職するも、再び海外へ。

2008年よりフロリダのウォルト・ディズニー・ワールドにてインターナショナル・プログラム(CRプログラム)に参加。2011年には就労ビザを取得し、ディズニー米国三越でマネジメント職を務める。

2018年、キャリアの方向性を大きく転換し、アメリカン航空のフライトアテンダントに転職し、国内・国際線問わず乗務している。

多国籍な職場だからこそ、会社が担う「土台づくり」

――文化背景の異なる仲間たちと働く上で、何か工夫されていることはありますか?

まず前提として、会社側が本当にたくさんの工夫をしてくれています。

アメリカン航空は、「それ、どこにある国?」というレベルまで含めて、本当に多国籍な人たちが集まっている職場です。

そのため会社では「クオータリートレーニング」と呼ばれる研修があり、3か月に1回、必ずオンラインで受講します。

内容は、ハラスメントに関するものや、文化背景の違いから起きた誤解を題材にしたケーススタディなどさまざまです。

「違いがあることを前提として理解する」そのための土台づくりを、会社がきちんと担ってくれていると感じています。

現場で実感する、文化の違い

実際に飛んでいると、「なるほど」と思う場面はたくさんあります。

たとえば文化的背景によっては、客室乗務員という仕事を、社会的に低い立場の職業として捉える価値観が、今も根強く残っている地域があります。

そうした文化の中で育ったお客様の中には、日本人からすると驚くような態度で私たちを呼ばれることもあります。

また、女性が顔を隠す文化圏のお客様の場合、女性クルーが話しかけても反応されないこともあります。

それは「無視している」というより、「そう振る舞うのが当たり前」という文化の中で生きてこられた結果なんですよね。

「無視された」ではなく、「文化が違う」

もしそうした背景を知らなければ、

「無視された」
「失礼な態度を取られた」

と、どうしても個人的に受け取ってしまうと思います。

でも、「そういう文化が存在する」と理解していれば、それは自分への否定ではなく、単なる価値観の違いだと受け止められる

そうすると、精神的なダメージはほとんどありません。

会社もそうした事例をきちんと共有してくれるので、クルー同士でも、お客様に対しても、「ああ、これは文化の違いだな」と冷静に考えられるようになります。

自分の普通は相手の普通ではない

文化の違いの中で働く上で、私が一番大切にしている考え方があります。

それは、「自分にとっての普通が、相手にとっては普通じゃないかもしれない」という前提を、常に持つことです。

特別なことはしない。ただ、一瞬立ち止まる

何か特別なことをしているわけではありません。ただ、行動する前に一瞬だけ考えるんです。

「日本人だったら、これは普通だよな。でも、この人にとってはどうだろう?」

そのワンクッションがあるだけで、トラブルになることはほとんどありません。戸惑うことはあっても、困ることはない。そんな感覚で、日々仕事をしています。

忘れられない、羽田便での出会い

――乗務の中で、忘れられないお客様とのやり取りはありますか?

あります。今年乗務した羽田便での出来事です。

私はポジションを選べるときは、できるだけビジネスクラスを希望しています。

私がビジネスクラスを選ぶ理由

ビジネスクラスは、サービスがとてもパーソナルです。

「○○様」とお名前でお呼びして、お食事も「チキンかビーフか」ではなく、「こちらのお料理にはこういう内容が含まれていますが、いかがなさいますか?」と、一歩、二歩踏み込んだご案内ができます。

その丁寧なやり取りが好きで、私はビジネスクラスを選ぶことが多いですね。

英語も日本語も通じないおばあさま

その便のビジネスクラスに、英語も日本語も話さない、かなりご高齢のおばあさまがいらっしゃいました。

搭乗情報を見ると、韓国籍の方でした。正直、「この方がご自身でアメリカン航空のビジネスクラスを予約されたとは考えにくいな」と思いました。

きっと息子さんや娘さんが、「一人での移動は大変だから」と、ゆっくり横になれるように手配されたのだろうな、と。

ただ、英語も日本語も通じないとなると、どうしてもお互いに「え?」という状態になってしまいます。

片言の韓国語が心を開いた瞬間

実は私は、韓国語を少し勉強していました。

韓国ドラマや音楽が好きで、文字はある程度読めるし、相手の言っていることは何となく分かる。でも、ビジネスクラスのサービスを韓国語だけで完璧にこなせるレベルではありません。

それでも、「今できることを全部使おう」と思って、持っている脳細胞を総動員して、片言の韓国語で話しかけてみたんです。

すると、その瞬間、おばあさまの表情がぱぁっと変わりました。

それまでほとんど反応がなかったのに、私が行くたびに手を握ってくださって、「ありがとう」「助かるよ」と、言葉にならないながらも、気持ちを伝えてくれました。

「言葉が完璧じゃなくても、伝えようとすることは、ちゃんと伝わるんだ」そう強く感じた瞬間でした。

ブランケットをめぐる、小さな判断

着陸が近づいた頃、そのおばあさまがコーラをこぼしてしまい、「新しいブランケットが欲しい」とおっしゃいました。

ただ、ビジネスクラスのブランケットは特別仕様で、席に備え付けのものしかありません。替えは用意されていないんです。

事情を説明すると、「大丈夫」と言いながらも、濡れたブランケットを使い続けていました。寒い中、それはさすがにかわいそうだな、と。

そこで私はパーサー(客室責任者)に相談しました。

機内には、パイロットやフライトアテンダントが休むための、カプセルホテルのような休憩スペースがあり、そこにはクルー用のブランケットがあります。

「クルー用のブランケットを1枚使ってもいいですか?」

そう聞くと、「いいわよ」と許可をもらえました。

「特別だよ」と渡した一枚のブランケット

クルー用のブランケットを持っていって、「これは特別だよ」と伝えると、おばあさまは泣きそうな顔で、何度も感謝してくれました。

着陸後、ドアが開いてお客様がおりていくときも、そのおばあさまは立ち止まって、両手を合わせて、何度も何度も「ありがとう」と伝えてくれたんです。10回以上は言ってくれたと思います。

学んでいてよかったと思えた日

あのフライトは、今でも忘れられません。

「もっと言語を学んでおけばよかった」ではなく、「少しでも学んできてよかった。使える日が本当に来たんだ」そう思えた瞬間でした。

これからも、最低限でもいい。誰かの不安を和らげられる言葉を、少しずつでも増やしていきたい。

そう強く感じた、忘れられないエピソードです。

【取材:溝口萌衣 / 編集:吉中智哉】

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