【第1回】 150cm・34歳でも米大手CAに。ディズニーを辞めてアメリカン航空を選んだ理由と他社(デルタ・ユナイテッド)との違い
「150cm・34歳。自分は無理だと思い込んでいた」
フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドでキャリアを築いていた順(すなお)さんが、次なる舞台に選んだのはアメリカン航空のフライトアテンダントでした。
なぜ、それまで選択肢にすらなかったエアライン業界へ飛び込めたのか。
デルタ・ユナイテッド・アメリカンの米国大手航空会社3社の違いから、アメリカならではの採用基準、そして「自分を過小評価しない」キャリアの選び方までを伺いました。

Thomas 順(すなお)
17歳で高校の交換留学生として初渡米。帰国後は立教大学を卒業し、日本で一般企業に就職するも、再び海外へ。
2008年よりフロリダのウォルト・ディズニー・ワールドにてインターナショナル・プログラム(CRプログラム)に参加。2011年には就労ビザを取得し、ディズニー米国三越でマネジメント職を務める。
2018年、キャリアの方向性を大きく転換し、アメリカン航空のフライトアテンダントに転職し、国内・国際線問わず乗務している。
エアラインはキャリアの選択肢にすらなかった
――アメリカでも多くの航空会社がある中で、アメリカン航空を選ばれた理由を教えてください。
きっかけは、前職で私の直属の上司だった先輩の存在でした。
その方がすでにアメリカン航空でフライトアテンダントとして働いていて、久しぶりに「元気ですか?」と食事をするような、何気ない再会だったんです。
そのときに聞いたのが、「今はこんなふうに生きていて、こんな働き方をしているのよ」という話でした。それまで私の中には、エアライン業界に行く選択肢は、まったくありませんでした。
というのも、日本人の感覚だと、フライトアテンダントには身長制限や年齢制限があるのが当たり前。私は身長150センチ、当時34歳。
どちらも「自分には縁がない世界」だと、完全に思い込んでいました。

150cm・34歳でも、受けていい
ところが、その先輩自身も身長は152センチほどだったんです。
「どうやって採用されたんですか?」と聞いたところ、
アメリカでは身長や年齢といった条件で採否を決めること自体が、差別(ディスクリミネーション)に当たると教えてもらいました。
身長が高い・低い、体格、肌の色、年齢。そうした属性で線を引くことは許されていない。
「だから、あなたみたいに150センチで34歳でも、受けていいのよ」
そう言われたとき、初めて「もしかして、私にもご縁があるのかもしれない」と思ったんです。
そこから、エアラインという選択肢を、初めて現実的に考え始めました。

アメリカン航空なら安心して働ける
数ある航空会社の中で、アメリカン航空が強く心に残った理由はシンプルでした。
その先輩から、働き方や福利厚生、会社の雰囲気について、直接、具体的な話を聞くことができたからです。
「ここだったら、私も安心して働けそうだな」
そう感じられたことが、まず大きかったです。そこで自然と、“縁”を感じたんだと思います。
必然的にアメリカン航空へ
とはいえ、アメリカン航空一本で挑戦する勇気はなく、いわゆる米国三大メインラインと呼ばれる、ユナイテッド航空とデルタ航空も受けました。
結果的に、デルタは二次面接あたりで選考が終了。ユナイテッドも最終段階まで進みましたが、先に内定が出たのがアメリカン航空でした。
「やっぱり、アメリカンに縁があったんだな」
そう感じて、アメリカン航空を選びました。振り返ると、狙って選んだというよりも、ごく自然な流れだった感覚に近いかもしれません。

米国三大メインラインは全部受ける
――就職活動の段階で、ユナイテッドやアメリカンなど、他社との違いはどのように感じていましたか?
感じました。
アメリカでは、フライトアテンダント志望の人は、基本的に三大メインラインと呼ばれる航空会社を全て受けます。デルタ航空、ユナイテッド航空、そしてアメリカン航空です。
ジェットブルーなど他にも魅力的な航空会社はありますが、国際線を大きく飛んでいるメインラインはこの3社。そのため、多くの人が同時に受験するのが一般的です。
労働組合の有無が、会社の性格を分ける
この3社の中で、最も大きな違いだと感じたのが、労働組合(ユニオン)の有無でした。ユナイテッド航空とアメリカン航空には労働組合がありますが、デルタ航空にはありません。
労働組合は、私たち従業員の立場に立って、さまざまな場面でサポートしてくれる存在です。
たとえば、何かトラブルを起こしてしまったときも、頭ごなしに処分されるのではなく、弁護する立場として間に入ってくれる。
また、「賃金を上げてほしい」「労働環境を改善してほしい」といった要望を、会社に対して交渉してくれるのも労働組合です。

デルタ航空は「規律重視」、日本企業に近い
一方で、デルタ航空には労働組合がないため、ルールや規律が非常に厳格です。
たとえば遅刻が何度か続くと、「はい、ここまで」とはっきり判断される。
良くも悪くも白黒が明確で、「きちんとできる人が、きちんと働く」会社だと感じました。
その雰囲気は、どちらかというと日本の企業に近い印象です。
採用の場でも、「よろしくお願いします。私は誰々です」と、ピシッとした緊張感がありました。

ユナイテッドとアメリカンは「余白がある」
対して、ユナイテッド航空とアメリカン航空は、労働組合がある分、ルールはあってもどこか“余白”があります。
言い方は少し悪いかもしれませんが、「何かあっても、どうにかしてくれるだろう」という安心感があり、受ける側もリラックスした状態で選考に臨めました。
その分、表面的な受け答えよりも、その人自身の人柄や雰囲気を見られている感覚がありましたね。
受験段階から伝わる「会社の空気」
選考の場の空気感も、はっきり違っていました。
デルタはキチキチとしていて、緊張感のある雰囲気。一方、ユナイテッドとアメリカンは、どこかほんわかしていて穏やか。
「企業文化って、こんなところにも出るんだな」
そう感じられるほど、受験段階からすでに違いを体感しました。
私の印象では、アメリカンとユナイテッドはとても似ていて、どちらも“人を大切にする会社”という空気がありました。

入社前はもっと厳しい会社だと思っていた
――就職活動の印象と、実際に働いてみてからのギャップはありましたか?
ありました。選考段階では、労働組合がある会社であっても、
- 「こういうルールを守らなければターミネーション(解雇)になりますよ」
- 「ファイア(解雇)されますよ」
という説明は、きちんとされます。
そのため、「意外としっかりしている会社なんだな」という印象を持っていました。
実際に入社してみたら…アメリカをそのまま映した職場
ところが、実際に働き始めてみると、いい意味でその想像は裏切られました。
無法地帯とまでは言いませんが、「アメリカン航空」という名前の通り、アメリカという国をそのまま職場に反映したような自由さがある。
毎日働きながら、「ああ、アメリカだな」と思う瞬間の連続です。
髪の毛の色は自由、ネイルも自由。中にはガムを噛みながら仕事をしているクルーもいます。
日本人から見ると、思わず「えっ?」となる瞬間
最近、特に「えっ?」と思った出来事がありました。
着陸後、お客様をお見送りする場面。
私は立って「ありがとうございました」と声をかけていたのですが、ジャンプシートに座ったまま、コーヒーを飲みながら「サンキュー」とお客様を送り出しているクルーがいて……。
思わず心の中で「こらっ!」ってツッコミました(笑)。
フレンドリーさがアメリカン航空の文化
日本人の感覚からすると驚くことも多いですが、裏を返せば、それがこの会社の良さでもあります。
お客様とも、どこか“お友達感覚”で接する。距離が近く、フラットな関係性です。
きっちりとしたサービスを求める日本とは違いますが、「人と人として接する」文化が根付いている。
そのフレンドリーさこそが、アメリカン航空らしさなのだと、今では感じています。

意外と知らない日本語スピーカー認定
――すなおさんご自身は、ロングフライトにも乗務されているんですか?
はい。入社後、外国語を話せるクルーは「ランゲージ・スピーカー」として登録できる制度があるので、私は日本語と英語が話せるということで、技能試験を受けました。
その試験に合格し、日本語スピーカー認定を受けています。そのため、日本路線には日本語スピーカーとして乗務することがあります。
日本語が話せる=日本便に乗れるわけではない
ただし、日本語スピーカーだからといって、常に日本便に乗れるわけではありません。
どの航空会社も基本は「シニオリティ」と呼ばれる年功序列制度。勤続年数が長い人から、希望する路線やスケジュールを取っていきます。
私は今8年目ですが、会社の中ではまだ“ジュニア”扱い。そのため、希望通りに日本便が取れることは多くありません。

羽田便は、狭き門
私のベースはニューヨーク(JFK)で、そこから羽田への直行便があります。
機材はボーイング787。フライトアテンダントは10名乗務しますが、日本語スピーカーの枠はわずか3名です。
その枠は、ほとんどの場合、勤続年数の長い先輩方が押さえています。そのため、私が羽田便に乗れるのは、1〜2か月に1回あるかどうか、という頻度ですね。
それでも、日本便に乗る意味
頻繁ではありませんが、日本語スピーカーとして日本便に乗れることは、私にとって大きなやりがいです。
日本のお客様が、安心した表情で声をかけてくださったり、「日本語が通じて助かりました」と言っていただける瞬間は、やはり特別ですね。
【取材:溝口萌衣 / 編集:吉中智哉】
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