【第2回】「先生が起業なんて」と笑われて。坂本真樹教授が語る大学発ベンチャー起業の壁とAI×感性のビジネス実装

坂本真樹

1969年生まれ。東京大学大学院にて博士号を取得。2000年より電気通信大学に着任し、現在は同大学副学長・大学院情報理工学研究科教授を務める。

言語学・認知科学・情報科学を横断し、オノマトペをはじめとする人間の感性をAIで扱う研究を行っている。

活動は学術分野にとどまらず、メディア出演や著書の執筆、研究成果を社会実装するため感性AI株式会社を創業し取締役COOを務めるほか、ソフトバンク株式会社の社外取締役として経営にも携わっている。

前例なき大学教授の起業

ーー感性AI株式会社を起業された当時、大学教授という立場ゆえの課題点はありましたか?

起業への具体的な決意が固まったのは2013年から2014年頃でした。それまでは、ソフトウェアを開発して企業にライセンス提供したり、共同研究をしたりと産学連携を続けていました。

しかし、企業に使用方法を提案しても、それを実行するかどうかは相手次第で、自身が本当にやりたいことを実現できるかは分かりません。

この経験から、自分で実現する必要があると考えるようになりました。とはいえ、電気通信大学の教授が社長に就任する前例はなく、非常に難しい課題でした。

人物金をどう揃えるか?社長探しからのスタート

成功させるためには「人・物・金」をそろえた体制が必要だと考え、当初は社長候補を探していました。

当時、私は講演活動も多く、長年所属していたオスカープロモーションを通じ、2017年頃にはメディア出演も頻繁にしていました。その度に「社長を探しています。起業したいんです」と発信していました。

しかし、周囲からは「大学の先生が会社なんて」冗談だと思われ、笑われてばかりでした。それでも、私は精神的にいつも余裕があって、まだ何でもできるという感覚があり、本気で起業したいと思っていました。

笑われても諦めなかった、京王グループとの出会い

そのような状況で京王グループの社長会で講演する機会があり、グループのトップの方が「面白い、検討してみては」と真剣に耳を傾けてくれました。

その出会いからわずか半年で、会社を立ち上げることが実現しました。

大学においては前例のないことで制約も多い状況でした。また、常勤教員が旗振り役となり自ら出資し創業するのは初めてのことでした。それでも「自分でやりたい」と決意を固め、その道を進みました。

経営者はなぜ元気いっぱいなのか?

その後、周囲に経営者の知人が増えましたが、彼らは皆、本当に元気で体力があり、多忙な日々を送っても笑顔で輝いているのです。

無理していたり、やらされていたりするのではなく、自分で考えたことをやっているからこそのバイタリティなんだと思います。

私自身も周囲から「ギラギラしてる」と言われますが、本心では「キラキラしてる」と言ってほしいです。

結局、主体的に「自分でやりたい」と思って動けばできるし、周りの視線や制約を気にして立ち止まる必要はないと思っています。

「大丈夫、いけますよ」という根拠のない自信にも似た気持ちが、何より大事なのです。

オノマトペと物質:感性を数値でつなぐ最新技術

ーー特に手応えの感じている事業分野はなんですか?

現在、最も力を入れているのが「オノマトペをもとに物性(物質の持つ物理的な性質)を予測する技術」です。

これまでは、オノマトペを使って「ふわふわ」などの「印象」を可視化するまででしたが、最新の研究では一歩踏み込み、物質の構成要素や構造まで予測できるようになりました。

この技術は企業からも非常に大きな反響をいただき、共同研究の輪が広がっています。

この技術を社会実装するため、素材企業と共に開発したのがマテリアルプラットフォームMaterial Linkです。

ブランド側が「スタイリッシュで革新的な素材がほしい」といった言葉を入力すると、生成AIを一部活用して概念を広げ、画像生成し、最適な素材候補を提案してくれます。

一方メーカー側は、素材に“感性データ”をAIで付与し、双方をつなぐ仕組みを整えています。「プリプリ」「モチモチ」「ザーザー」などの感性も数値化され、素材のイメージを共有できます。

感覚的な言葉を共通言語(数値)に変えることで、作り手と使い手のミスマッチをなくし、ものづくりを変える仕組みを整えています。

技術の凄さと売れるは別物。社会実装の難しさ

ただ手応えだけでなく「どれだけ高技術なものを生み出しても売れない」ことも何度も経験しました。

いくら研究としては面白く、実装も成功し「売れる」と思えるようなサービスでも、逆に邪魔と感じられてしまい、社会に受け入れられない難しさを痛感します。

未来社会創造事業のプロジェクトリーダーとして作った「空気を読むAI」もそのうちの一つです。

会話の空気、生体情報、環境情報を同時に学習させるマルチアウトプットのディープラーニングモデルで、ストレスや知的生産性を予測し、IoTで空調や香り、映像などを自動で制御する仕組みを作りました。

大量のデータ収集に苦労したのですが、ビジネスとしてはうまくいきませんでした。

技術売りで終わらない。困っている人に届くサービスを

また、体調の記録ができる医療系アプリも開発していますが、アプリはお金を払ってもらいにくく、売り方が非常に難しい点が課題です。

認知症領域にも力を入れており、新聞にも多く取り上げられています。研究をきちんと論文にした上で、診断に使ったり、トレーニングアプリやゲームにしたりと、研究から実装まで一貫して進めることに強いこだわりがあります。

「困っている人同士をつなぐ」などのアイデア勝負で成功するサービス(メルカリなど)もある一方、大学発ベンチャーはどうしても技術売りになる傾向があります。

技術が優れていても、社会のニーズと合致しなければ売れない。その難しさを知ったからこそ、今は「誰がどう使うか」まで含めた実装にこだわっています。

[ 取材:相木大空 / 編集:若林千紘]

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