#1 外交官になるってどんな感じ?進藤さんに聞いた「外務省への就職と海外勤務のリアル」

【進藤弘騎さん】

高校生の頃から国際協力に関して大規模に関わりたいと考え、大阪大学卒業後に外務省に入省。スペインでの研修を経て、主に中南米や紛争地帯での業務に従事。

退省後は国連職員として、ヨルダンで難民支援活動にも従事した。

「外務省で働く」という選択をするまで

ーー外務省を目指したきっかけを教えてください。

大学2年のときにNijera Koriという、女性の権利擁護に取り組むバングラデシュのNGOで、1ヶ月間インターンをしたことです。

途上国自体初めてで、いろいろなことが新鮮に感じて純粋に楽しかったと思える経験でした。

他にも色々な国に行ってみたいとか、国際協力にも興味を持っていたんです。国際協力に関して最も大規模な仕事をしているのが、外務省だというイメージがあり、そのような理由で外務省を目指しました。

就活では、外務省以外にも国際的な商社や、グローバルに展開している製造業などさまざまな業種を検討しました。しかし、最終的に外務省を選びました。

NGOに参加後、海外での就職を決意

ーー元々、海外で働こうと考えていたということですか。

そうです。一番は「海外に行きたい」という思いが、ありました。

高校時代、アメリカに1年間留学していましたが、バイトで貯めたお金で、自力で海外に行ったのはバングラデシュが初めてでした。ですので、とても思い出深いです。

帰ってきた時、得た経験に対して、非常に満足感を感じると同時に、「まだ世界には行ったことのない国が190くらいあるんだ。この感動をあと190回味わえるんだ!」と思いました。

バングラデシュでの経験をきっかけに、「よし!この路線でやって行こう!!」って、決意した覚えがあります。

海外で仕事したい!と思った「きっかけ」

ーー海外に興味を持ち始めた最初のきっかけは何ですか?

主に2つあります。

まず1つは、親が英会話学校の先生をしてたので、英語が少し得意だったことです。

ふたつ目は、高1のとき、アメリカで同時多発テロが起こったことです。ニューヨークで飛行機がビルに突っ込んでくる映像を見たのが衝撃でした。

9.11が起こったことにより、国際情勢について関心を持ち、翌年にはアメリカ留学に行って、国際的な方向でキャリアを考えるようになりました。

100社受けてみた!就活と試験勉強の日々

ーー就活時代、色々な会社を見た時に印象に残っていることはありますか。

人生で初めて、大人に真剣に話を聞いてもらって、真剣にフィードバックをもらう経験ができたことは楽しかったです。

企業説明会に行っても、「準大人」として見てもらえました。

疑問もぶつけたらきちんと返ってくるし、本気でコミュニケーションがとれたと感じることのできる、いい時間でした。

私自身で、「1業界1社」っていうルールを設けて、それほど興味のない業界でも1社は受けました。視野を広げるために100社ぐらい受けて…。最終的に普通の倍以上かかっちゃいました。

大学3年の頭から就活を開始して、しかも1年就職浪人したので、2年以上就活しました。就活もしつつ、外務省を目指すために公務員試験の勉強もしていました。

自分がしたい仕事を考えるきっかけ 就活の「選択」

ーー外務省以外で受けた会社の中で印象的な出来事はありますか?

ベンチャー企業と大企業は、対照的でかなり悩みました。裁量を取って小さいところに行くか、規模の大きさや安定を取って大きいところへ行くか、そのバランスが絶妙だからこそ、どちらも魅力的で悩みました。

裁量があればあるほど、自分で物事を考えて進めていける。だから、満足度が高いだろうと思う反面、大きな組織にしかないインパクト、スケールの大きさにも魅力を感じました。

そういう考えを踏まえると、国際協力分野で、国単位で物事を予測して、何百億を動かすような規模感の仕事は外務省でしか経験できないと考えるようになりました。

霞ヶ関はブラックか?実際入ってわかった事

ーー外務省に実際入ってみて、ギャップを感じる事はありましたか。

Z世代はこれまでの世代より、ホワイト志向がより高まっているかもしれませんが、1年目のときは、自分もブラック体質とか長時間労働に対して拒否感を持ってました。

しかし、実際に仕事をしてみると、成長意欲が湧いてきて、自分の守備範囲をより広げたくなってきました。

自分の守備範囲を広げ、経験を積むためには、進んで仕事を取っていかないといけない。自分で自分の首を絞めるみたいな戦いになってきます。

でも、それもある種、心地よい部分があって、スキルセットがたまっていく感覚があるんです。

外務省で働く場合、自分の仕事が国益に寄与しているという感覚もある中で、休みたい気持ちと、成長意欲との間で葛藤が起こることはあります。

外交官は1人1言語、研修語を言い渡されます。自分の場合は、スペイン語でした。

ただでさえ、平日長時間働いている中で、本音を言えば週末くらい休みたいところですが、週末も惜しみなくスペイン語の自習に充てていました。

1年目は辛いと感じましたが、振り返ってみると、いい時間だったと思います。

辛くても頑張れた理由と仕事への達成感

ーーそれほど頑張ろうと思えたのは、なぜでしょうか。

周りや同期を見ると、自分より頑張っている人がたくさんいたからです。

これは実際のところ、良くない話なのですが、課によっては、残業時間が当時、月200時間いくこともあったんです。

自分は130時間ほどだったので、あいつがあんなに頑張っているから、自分は残りの70時間スペイン語を自習しようみたいな、当時はそういう感覚になっていました。

でも、全く後悔はしてないです。辛かったけど、頑張れて良かったと思ってます。

意外と知られていない?外務省官僚の仕事の「実際」

ーー官僚の仕事をメディアで見る機会が少ない気がしますが、なぜでしょうか?

自分が入省した当時、外務省の事務次官(官僚のトップ)をやっていた藪中三十二(やぶなか みとじ)さんがカンブリア宮殿で特集されたり、寿司を握る外交官のような一芸ある人がテレビに取り上げられたりしたことはあります。

華があって、絵になる人たちは、皆さんの目にとまるような番組に出る機会があるかもしれません。

しかしながら、官僚というのは、ペーパーを埋めて、会議をやって、議事録を書いて、それを政策に落とし込んで、政治家の皆さんに説明をするのが仕事。

実際、密着しても全く面白くない。あまり見所もない地味な仕事をしているんです。

官僚と政治家の対比

この世界では「すごく優秀な政治家はすごく駄目な官僚、すごく優秀な官僚はすごく駄目な政治家」と言われます。

人を巻き込んで、応援してもらうのがうまい人であれば、政治家になる才能がある。だから国民の投票を得て、皆さんを代表して、政策はこうやっていくべきだって先頭に立って旗を振っていく。

官僚は、できるだけ目立たない形で、粛々と大きな組織の歯車を回していく役割が適している。

ドイツの学者マックス・ウェーバーが説明していた官僚制のように、無機質な官僚像みたいなのがやはりベストなんです。

世界水準で見るとわかる、日本の官僚の「優秀さ」

官僚制の悪しき部分をみんな指摘しがちというか。官僚は血税で生活しているから、どれだけ叩かれても言い返してこないという意識がどこかあって、事あるごとに国や官僚は批判の矢面に立たされてしまいがちです。

しかし、世界水準で比べたら、実際に海外に住んでみたら、日本の公務員がどれほど優秀かを理解できると思います。

例えば、日本の市役所に行ったら待たされることなく対応してもらえますし、時間がかかったとしても、誠意のある対応を期待できます。

問題があれば解決しようと動いてくれる姿勢。日本人にとっては「当たり前」かもしれませんが、海外では決して「当たり前」ではないんです。

外務省の成果としてのパスポート

実際、日本の官僚は高度成長期以降の40年〜50年の間、非常に高いパフォーマンスを発揮してきました。 

外務省の成果の1つを挙げると、ビザなしでどれだけの国に渡航できるかを示すパスポートのアクセスモビリティの世界ランキング(編集注:通称「パスポート番付」)があります。

日本は2022年まで5年連続で1位を取っていたんです。2023年は3位でしたが、2024年は首位と、高水準を維持しています。

これも外務省がチームとしてのパフォーマンスを高めて、世界各国から信頼されてきた成果の一つだと思います。

[ 文:東濱理沙 / 編集:はる]

[撮影:梨本和成 / デザイン:石橋天知 ]

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