「身近なところに突破のヒントは転がっている!」大学教員が今の若者に伝えたい、自分の殻の破りかた #5
前回は、大学教員のなりかた、求められる資質について伺いました。
杉浦先生のインタビューも今回が最後。最終回となる今回、杉浦先生がこれから社会に出る若者たちへ伝えたいことについてお話いただきます。
先生!僕たちはどう生きるべきですか?!
【杉浦陽介(すぎうら ようすけ)】工学博士。埼玉大学 大学院理工学研究科助教。大阪大学工学部卒業、同大学博士課程修了。東京理科大学基礎工学部の助教を経て現職へ至る。専門はAI技術を使った音声認識や雑音除去、声質変換の研究
経験を通して自分を知ることが大事
-コロナで人間関係のスタートダッシュが遅くなってしまった学生はこれからどういう風に動いたらいいですか?
めちゃくちゃ具体的で面白いですね。
答えるに適切な人間じゃないかもしれないけど。僕の考え方でいいなら答えます。まずはね「バイトしろ」って皆に言ってます。
この2年間で、関係が広がらなかった学生がすごくいます。高校までは同級生との関係が濃くなりがちなので、上下関係の築き方とか知らない学生が結構います。
なので、まずは「バイトしてくれ」と。上下関係の人間関係の作り方を学んだ上で、人間を見極める力をつけてくれ、それを就活に活かしてほしいと伝えています。
先ほど言いましたけど、やっぱり自分に合う環境を探すっていうのはすごい大事です。自分の人間性をちゃんと理解して、相手の人間性を見極められるようにする。
それができれば、自分にあったキャリア選択ができるようになる。就活でいえば、自分を知った上で始めて自分に合う仕事や会社を探すことができます。
だから、バイトとかからでいいから、色んな経験を通して、そこらへん鍛えてくださいって伝えています。
-自分に合う場所を探すっていうのは「わたし」につてい自分自身が理解しないといけないってことですね。
そうです、その通りです。
僕の場合は、普通の企業とかで働くのは難しかったんだろうなって思います。こだわりが強くて折れない部分もあるので、そこは折り合いつかなかったかもしれません。
純粋に自分の疑問を深めることができるので、大学の研究職で良かったなって心から思います。
教員からみた大学生たち
-先生が指導している学生は「これを研究したい」って対象をお持ちですか?
無い学生の方が多い印象です。1:9で、9割が特にない方です。
うちの研究室は、音声、画像、通信分野っていうような、広い分野の研究をしているので、なんとなく音声がしたい、なんとなく画像を触ってみたいぐらいの気持ちで入ってくる学生が多いですね。
その9割の学生にはどう対応してるんですか?
教員としては難しいところですが、2パターンあります。
一つはもう我々の方からテーマを与えちゃうパターン。学生としてもそっちの方が何をすべきかってのが見えやすい、研究しやすいって人もいます。
もう一つが、もうどうにかして見つけろと。その場合は、好きなことっていうよりは、社会に役立つ目線、役に立ちそうな技術ができないか探してもらいます。こちらの方が学生たちにとっては大変だと思います。
-今の若い世代に思うことはありますか?
自分が何をやりたいのか、何が好きなのかっていうのを実は把握してない子って多いと思っています。
20歳前後って、ちょうど社会について知り始めたぐらいで、自覚としてもう少しで社会に出るんだなって思い始める年齢です。
そのせいか、現実的というか、型にはまった考え方をしちゃう学生が多い気がします。
埼玉大学は国公立のせいか、特におとなしい学生が多いのかもしれません。「やってやるぜ!」っていう熱い学生よりは、おとなしく平穏な日々を過ごしたいっていう子たちが多い印象です。
そうなってくると「新しい自分の殻を破って、チャレンジするぞ」っていう学生は多くないですね。
-保守的な感じ。
文系は公務員、理系はメーカーみたいなルートをとる生徒が多い中で、あえて今一度、自分の好きを見つめてほしいなと思っています。
研究テーマ見つけるってすごく難しい。何となく音声ってやりたいけど、じゃあ具体的に何をやればいいんだろうってなった時に、何も見つからない。その壁を破って欲しい。
まずは「自分って本当は何をやりたいんだろう」「何が好きなんだろう」っていうのに向き合ってもらった上で、「アレ面白いな。もうちょっと深めてみようかな」っていうのを見つけて、そこから研究につなげてほしいと思っています。
難しいとは思うんですが、ちょっと頑張って自分で見つけて来いと。そういう想いもあって、子供を崖から落とすつもりでやっています。
自分の中にある小さな思いのタネに火を灯せ
-自分の型を破るのに「こうしたらいいよ」みたいな助言はありますか?
これはね、本当に人によっても違うし、めちゃくちゃ難しい問題。実際、僕が教育を考える上での一番の課題になってます。
殻を破らない子っていうのは、基本的に諦めやすい子なんですよね。
例えば、研究テーマで音声認識をやってみたい生徒がいるとして、いろんな論文読んでいくと「もうやり尽くされてるじゃん」「いろんな研究されてるじゃん、自分やれることない」って諦めちゃう子がいるんです。
でも「実際どう?音声認識使ったことある?」って言ったら「ない」と言うんです。
「なんで?」って聞いたら「なんかちょっと精度悪かったりしません?」「ボソボソ喋ると認識しませんよね?」って。じゃあそこにニーズあるじゃん!ってなるんですよ。
コンピューター的に喋り方の癖を直してあげないとちゃんと認識しないよね、そこにニーズあるじゃん!って。そこに気づいたり、掘り下げるには、折れない心、投げ出さない心ってすごい大事なんですよね、実は。
折れないように最後まで持っていくのはすごい大変なんですけど、「こういう視点もあるよ、こんな視点もあるよ。さあ自分で選んでみよう!掴んでみよう!」って言って、どうにかサポートしています。
-やってみたいことやなりたいものは探せば見つかるものですか?
好きとかちょっと強い言葉になっちゃいましたけど「自分にどういう思いがあるのか」とか「自分の本心ではこういう思いがあるよ」っていうのに向き合ってほしいってことです。
言語化が難しいですが、自分の思いってよくよく考えないとすぐ消えちゃう儚いものなんですよ。日常にさらされるとすぐ消えちゃう。
でも、そういうふとした思いの中に、自分の本当の幸せに繋がるような、本当はめちゃくちゃ熱い思いが混じってる。
だから、すぐ絶ち消えちゃう小さな思いのタネに、しっかりと向き合って、すくい上げてあげて、自分なりの形にしてほしい。
別に好きじゃなくてもいいので、普段から身の回りの感度を高めてほしい。「これなんかちょっとおかしいな」とか「もっとこうすればいいのになあ」ぐらいの、ちょっとした疑問でもいいんです。けど、そういう思いをちゃんとひろい上げてほしいです。
-考える癖みたいなことですね。普段からアンテナを張ってるからこそ発見できることもある。
まさにそうですね。学生にも言ってます。アンテナだけは張っとけと。感度高めで、いつかひっかかるからっていう話をしてます。
自分を知って、生きれる環境を探そう
-研究もそうですけど、進路や仕事を選ぶのが怖いっていう学生にはどんな助言をしますか?
間違ってもいいから今選びたいものを選べって思います。目の前にあると重大に思うことも、何年後か、何十年後かに振り返るとそこまでじゃない。
遠回りにはなるかもしれないけど、再起不能になるけじゃなければ、大きな失敗じゃない。小さい失敗なら、むしろしてもいいんじゃないかと思います。
怖くて動けなくなるぐらいなら「もう失敗しちゃえばいいじゃん」ぐらいの感覚です。
-何を学ぶか、何をするか、というより、自分が気持ちよく働いたり、活動できたりするところはどこだろうっていうふうに考えてみるといいっていう。
研究室選びで学生によく言うのが「人みて選べ」ってこと。
好きだけを原動力に研究するって意外に難しくて、心折れそうなことってたくさんあります。
そういう時に、最後に支えてくれるのは周り人たちなんですね。
周りの人おかげで頑張れたりするんで「自分と合う人間がいるところに行け」っていう、それだけは伝えてます。
これは就活、仕事選びにも通じていると思います。
杉浦先生インタビューまとめ
[編集:吉中智哉 / 撮影:高橋エリー]
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