#5 やりたいことなのに気持ちや情熱がついてこない!大学生からのキャリア相談
日々、化学の研究をしている吉村先生。
これまで、修士課程、博士課程、ポストグを通じて、研究に没頭してきた人生でした。
大学教員が考えるキャリアとは??
探究ゼミメンバーのキャリア相談に乗ってもらいました!
【吉村英哲 助教】
東京大学大学院理学系研究科化学専攻助教。京都大学工学部工業化学科卒業後、複数の研究所を経て、2009年より東京大学で教鞭をとる。
主な研究テーマは「生細胞内分子の動態解析と操作を通じた生命現象作動機構の解明」
目次
やりたいことなのに気持ちがついてこない
今やりたいことをやってみましょう
ーー今やっていることが好きで始めたことなのに、なぜか気持ちがついてこない時があります
ポイントは、それが「やりたいこと」なのか「なりたい状態」なのか。
東大生に限らず「いい学校に行って、いい大学にいって、いい会社に入る」ってことを良きことと思い込んでいる学生が一定数います。
そんな生き方もそれなりに幸せだと思います。その生き方だと「やりたいこと」を考えなくていいんですよね、こういう風に「なればいい」って思っているから。
「やりたいこと」と「なりたい状態」をみんなが探していますが、「やりたいこと」を考える人の方が、だいぶ悩んでいる印象です。
やりたいことはいくらでも変わります。今やりたいと思っていることも3年後には別のことに変わっていたりもするでしょうし。
だから、その時に一番やりたいと思えることをするのがいいんじゃないかと思います。
やりたいことがないなら可能性を広げてみよう
やりたいことが決まっていたら、とりあえず進んでみる。
高校生の時に寿司職人になりたい!と思ったら、大学に行かず職人の道に行ってもいい。高校から活躍しているスポーツ選手は、大学に行かずプロに行ってもいいと思うんです。
そうじゃなくて、特に本格的にやりたいことがない場合。そんなときは、一番選択肢を広げられる可能性のある方向に進めばいいと思います。
「この能力に秀でているから、この道で行く!」ってはっきり決まってないからこそ、可能性を見つけたり広げられそうな環境へいく。
大学はその手段の1つです。
やりたいことに縛られすぎない
選択肢を決めるのではなく、残した状態で先に進む。それでいいんじゃないかなと思います。
やりたい事って別に一つじゃなくてもいい。あれもやりたいこれもやりたいでもいい。後から変わってもいい。
いろんな選択肢を考えつつ、これが良さそうだなっていうものを気楽に選ぶのがいいんじゃないかな?
って無責任ながらも思います。
好きで始めたことに情熱が湧かない
ーー高校生の時の憧れで大学の専攻を決めたのですが、最近情熱が出てこなくなりました。どうしたらいいと思いますか?
難しいですよね。人間は絶対楽な方に流れますから。それも人間というものの本質だと思います。
大事なのは「これができたらこんな楽しいことがある!」ってのをどれだけはっきり想像できるかだと思います。
もしかしたら、いま本当にやりたいことがそれじゃないのかも。
それは、
- 昔はすごく面白くて素敵だと思っていたけど、その思いがだんだん色褪せてきた
- 実際やり始めてみたら、想像とは違う部分があって、その部分が楽しくない
どっちですか??
ーー後者だと思います。興味は今もありますが、やりたいことに付いて回るやりたくないことが自分にとっては壁です。わがままなのは分かっているんですが...。
それは単純に、趣味と仕事の違いだと思います。
趣味と仕事の違い
僕がいる学科、化学が好きでうちの学科(化学科)を選んだ学生がたくさんくるんですが、彼らはその後大きく2つに分かれます。
一方は、研究室に入っても楽しく化学研究をやっていく。もう一方は研究室に入ってやる化学が「今までと違う」と思ってしまう。
研究して論文を書くためには、それまで経験してきた「楽しい化学」だけでなく、ものすごく面倒な作業をやらなきゃいけない。
実験だけを取ってみても、何度も同じサンプルを用意して、同じ測定を繰り返して再現性を取って、平均とばらつきなどの統計解析を行って...。こんな感じで、地味な作業を何度も繰り返して1つのデータをとるんです。
私自身も学生の頃から実験作業が苦手で、早く実験しなくていい立場になりたいって思っていたので、気持ちはわかるんですが…。やらないといけないんですね。笑
それが職業なのか、趣味として好きなのかの違いです。
地味で面倒なことをできるのがプロ
実験以外でも、英語は論文を読んだり書いたり学会で発表するのに必要なので日々勉強しないといけませんし、得られたデータの解析には統計や数学の知識が必要になる。結果を人にわかるように伝えるための発表資料を作ったり文章を書いたりするデスクワークもたくさんあります。
他の人の仕事を見たら、その表面しか見えない。だからそのギャップを最初から覚悟していく必要があります。
壁の超える方法は先人に聞いてみよう
その嫌な部分をどう頑張るかは、いろんなことを乗り越えてきた人に聞くといいのではないでしょうか?
嫌だなと思うことをしたその先に、やりたいことがあるから頑張れるんだと思います。
だから、あなたにとって理想の状態にいる人の経験を、追体験してみてはどうでしょうか?
著書でもいいし、インタビューでもいい。
壁を突破するヒントがあるかもしれませんし、面倒なことをやってでも目指す価値があると思えるかもしれません。
一つしか知らない中で選ぶのと、たくさんの選択をした後に選ぶ一つは、同じ一つでも全然価値が違うと思います。
探究ゼミのインタビューも、そのヒントの一つ。
いろんな道を知って、良い選択をしてください。
ーー吉村先生ありがとうございました!!
[文:ことね / 編集:吉中智哉]
[撮影:梨本和成 / デザイン:舩越英資 ]