#4 学歴の考え方が違う!国際社会で働く上で知っておきたい「見方・考え方」
【進藤弘騎さん】
高校生の頃から国際協力に関して大規模に関わりたいと考え、大阪大学卒業後に外務省に入省。スペインでの研修を経て、主に中南米や紛争地帯での業務に従事。
退省後は国連職員として、ヨルダンで難民支援活動にも従事した。
目次
日本と海外ではこんなに違う!学歴の考え方
ーー学歴の価値が海外では違うと聞きます。それはどういうことでしょうか?
国連って学歴社会なんですよ。マスター持ってないとだめですよとか、学士持っていないと、うちは受け付けてませんよと言ったような。
その一方で、大学の名前で戦えるかっていうと、実は、あまり気にしないんですよ。
ハーバード大学は聞いたことあるけど、ナイロビ大学とか東京大学ってどうですかってなると、わからない。
私が大学院を卒業したスペインでもそうでしたが、欧州では、日本のような大学の偏差値ランキングのようなものが全く存在しない国も多いです。
大学名ではなく学位名が大事
ーー大学名ではなく、「degree」(学位)が大切ということですか?
そうです。しかも、その中の「学部」がとても重要です。
日本の場合、理系から文系の職種に応募もできたりするし、就活の段階で、医学部などを除いて、学部に応じて差別化されていると感じることは、あまりないと思います。
しかし、国連とかは、具体的な修士や学士、例えば「social study」や「social science」を持っていないと応募できない職種もあります。
何年語学を勉強したら仕事に使えるか?
ーー語学は何年ぐらい勉強すれば、海外でも通用するレベルになるんでしょうか?
当時は、ほぼ初学で、大学で1年だけちょっと齧(かじ)ったくらいで入省したんです。
周りはスペイン語で留学も仕事も何年かやってましたみたいな人とか、スペイン語のDELE*試験で言うと、1番上のレベルを取ってますみたいな人がいたりして。
※DELE:スペイン語の検定試験。「入門」から「最上級」まで6つのレベルに分かれる。
それに比べたら、自分はほぼ初学というか、DELEのA2レベル。
その時、「やばい」と思って勉強しました。2年間みっちり留学の甲斐もあって。留学が終わった頃には、なんとか通訳もある程度任せてもらえるレベルになりました。
OJTで慣れてくると、仕事で使う状況だったり、ボキャブラリーだったりが、ある程度限られてくるので、数を重ねれば、大丈夫なんです。
スペイン語は、本当に難しい言語で、入りはとっつきやすいけれど、極めるにはもう何十年もかかります。
特に母国語がアルファベットではないので、日本人には相当難しいんですけど、仕事で使うぐらいのレベルであれば、2~3年で習得できるかなと思います。
国際協力に携わる上で大事にしている哲学
ーー国連職員、国際公務員として仕事する上で、大切にしてる考えはありますか?
やれることより、やれないことの方が圧倒的に多い中でどう頑張っていけるかが重要です。
人道業界や国際協力に携わる上で、どこかで超えないといけないジレンマがあるわけです。
影響を受けた聖書の話
ヨルダンにいたとき、人道関係者の方とお話する機会に恵まれまして、あるNGOの代表の人から、聖書の一節のお話を聞きました。
イエスキリストが海岸沿いを歩いていたときに、何万ものの魚が打ち上げられていて、それを1匹1匹捕まえてイエスが海に向かって投げている。
それを見た弟子たちが、
「イエスさん、なぜ、そんな意味のないことをするんですか。」
「こんな数匹ぐらい送り返したところで、何万匹も打ち上げられていて、我々には到底みんなを返すことができない。意味ないですよ。」
それに対してイエスは、
「自分が今助けている魚は、全体で見たときにはほとんど取るに足らない小さなものかもしれない。しかし、助けられたこの手のなかにある魚にとっては非常に大きなことである」
そうい言って一匹ずつまた投げ続けた。
この聖書の一節と同じで、世界的に見れば、自分のやってることは大きな人類の流れのなかでインパクトがないかもしれない。
けれど、その助けた1人1人にとっては、意味があることを自分はやっていると思える。
この聖書の話を見習って、自分も1人1人にフォーカスして、頑張っていきたいなと思います。
先ほどお話しした、UNHCRの事務所の前で、私を見てた難民の人たちの顔もそうですし、ホンジュラスでもストリートチルドレンとか、アフガンでもすごく極寒の中裸足で歩く老婆とか1人1人をどうにかしたいなっていう思いが出てきます。
1番大切なのは、そういう気持ちだと思います。
国連職員になるには
ーー国際公務員や国際関係を目指す人へ、一つだけアドバイスをするなら?
ともかく英語力を伸ばせば、チャンスはあると思います。入り方は色々ですから。
1番大切なのは、気持ちだから大丈夫です!
国連を目指す目にやること
国連の組織に入る前の期待値が高いのがあるあるです。国連だから、期待してすごい仕事ができると思って入ると、また現実とのギャップがある。
実際にこの仕事を目指す前に、イメージと現実のミスマッチがないように、実態をわかった上で、本当にやりたいかどうかを見極める。
本当に国際公務員になりたいですか?というのを、重々チェックした上で「間違いない!」と言えるのであれば、道は開けると思います。
国連インターンについて
ーーミスマッチを防ぐためには、インターンという選択肢もありますね。
そうですね。国連にもインターン制度はもちろんあります。
ただし、「学部卒・院卒ともに卒業後2年以内」とか「在学中の人」しか採用しないところが多いおおいです。その点、気をつけてください。
インターンじゃなくても、実際に働いてる現役の人に話を聞くのも良いと思います。
具体的な話は志望する組織によって変わる
ーーここまでの話は国連というと大きい枠での総括的な話ですよね?
そうです。
国連という組織が、大体何組織くらいあるかご存知でしょうか?
国連ファミリーに入る組織数は、実は100個ぐらいあるんです。UNHCRは、本当にそのうちの100分の1なんです。
だから本当に、国連っていう大きい主語で話すと、今のようなことが言えますが、個別具体的な話だと、また話が変わってくるかもしれません。
自分が働きたい国連組織で、実際に働いてる人に話を聞いて、マッチングしていくのが良いのではないかと考えます。
グローバリゼーションとアメリカナイゼーション
ーー海外経験が豊富な進藤さんから見て、現在の日本はどう見えますか?
日本国内でグローバリゼーションが叫ばれて久しいですが、日本で今起きてることの多くは、実はアメリカナイゼーション*なんじゃないかと思っています。
※アメリカナイゼーション :世界各国が政治、経済、社会、文化の各面がアメリカ合衆国のようになる現象
例えば、2023年はWBCで日本が優勝しました。それはめちゃくちゃすごいことなんですが、ワールド・ベースボール・クラシックって言うほど「ワールド」でもなくて、20カ国ぐらいしか参加していない。
百歩譲ってもWBCじゃなくて、IBC(International Baseball Classic)の方が正しいんじゃないかと思います。
メジャーリーグはマイナースポーツ
あとMLB、メジャーリーグベースボールとも言いますが、世界的にみたら野球はマイナーなスポーツなんです。
なぜかと言うと、野球の競技人口は3000万人ぐらいですが、クリケットは10倍の3億人ぐらいいるんです。
世界的には野球してる人よりもクリケットしてる人の数が多くて、その意味ではクリケットの方がメジャースポーツなんです。
普通に日本で暮らしていると
「野球って世界的に人気なスポーツでしょ?大谷選手って世界中で知られてるんじゃないの?」
みたいな錯覚を起こしてしまいますが、残念ながら、そうではないんです。
メジャーリーグの野球選手の出身国とか見ていくと、せいぜい10カ国ぐらいしかなくて。その意味で、残念ではありますが野球は世界の一部で盛り上がっているスポーツ。
これに気が付かないのが、まさにアメリカナイゼーションの最たる例です。
グローバリゼーションの意味を問う
スポーツのような、カルチャーの話で柔らかいものなのかもしれないけど、実はクリティカルな政治経済問題とかにも、アメリカの影響力が強く出てます。
それは日本だけじゃなくて、世界中で影響力が強い。
「世界に出たら、バリバリ自己主張をするのが正義」みたいなイメージを持つかもしれませんが、ゴリゴリ自己主張する国は、実はそんなに多くない。せいぜい欧米諸国の一部です。
アジア、中南米、アフリカ。第三世界と呼ばれる国々には、自己主張が苦手で、日本人くらいモジモジした人たちが大勢います。
だから「どこの国々をイメージしてグローバルと言いますか?」ってところがポイントだなと思うんです。
世界を知るには、現地に行くに限る
世界をありのままに見ようと思ったら、実際に自分で行って、その国の人たちと友達になるのが一番です。
ハリウッド映画もそうかもしれませんが、アメリカの特殊な色眼鏡をかけたままの日本人は多い気がします。
真のグローバル、国際人を目指す人は、ぜひ自分の足でいろんな国を直接体験してもらたいと思います!
[ 文:東濱理沙 / 編集:吉中智哉]
[撮影:梨本和成 / デザイン:舩越英資 ]