#3 国連職員としての仕事の実際とは?進藤さんに「働く意義とやりがい」とは何かを聞いてみた
【進藤弘騎さん】
高校生の頃から国際協力に関して大規模に関わりたいと考え、大阪大学卒業後に外務省に入省。スペインでの研修を経て、主に中南米や紛争地帯での業務に従事。
退省後は国連職員として、ヨルダンで難民支援活動にも従事した。
目次
ヨルダンで印象に残る出来事
ーーヨルダンといえば、イスラエルやシリアとも隣接する国ですが、印象に残った出来事はありますか?
脳裏に焼き付いてるシーンがいくつかあります。その中で、1つだけ紹介します。
国連難民高等弁務官(UNHCR)といえば、緒方貞子さんっていう伝説的な日本の国際機関トップが、90年代に10年間近くUNHCRにいらっしゃいました。
なので、難民行政をやりたかったらもうここしかないと。
でも、実際行くと、できることもあるけど、圧倒的にできないことの方が多い。難民は救える人よりも救えない人が圧倒的に多いというのが大前提。
当時、100万人とかの人が、シリアからヨルダンに来たんです。
ヨルダンという、人口が1000万人ぐらいの小さい国に対して、100万人のシリア人(ヨルダンの総人口の10%)がいきなり5年ぐらいで来て、もうパンクしてるわけです。
それで、生活が立ち行かない人たちがたくさんいて、そういう人たちが、UNHCRに期待してくれているから、事務所の前とかで、「HELP ME」の看板を持って、毎朝いるわけなんです。
私は歩いて出勤してたので、難民の人たちが、声に出さず、目で訴えかけてくるのを毎朝見ていたことを思い出します。
それは辛いし、でもそれだけ期待されてるというか、「助けてくれ」って来てもらえる組織というやりがいも感じました。
私がいたのは、2021年。だから、「アラブの春」からは10年ぐらい経っちゃった後でした。
自発的行動を促すUNHCRの難民支援
ーー難民を救うという難しい活動に取り組む中で、不可能を可能にするために、具体的にはどういう努力をしましたか。
UNHCRとしては、基本的に彼らの問題は、彼らが一番よく知ってるし、自身で解決することが一番良いと思っているんです。ですので、自分たちで問題を解決するために、必要な支援をするというのがUNHCRのアプローチになります。
例えば、職業訓練やレクリエーションができる建物の提供、組織化まではUNHCRでやって、その先は、難民自身がやっていく。
我々が何か言うよりも、自主的に問題を解決するように、うまく促していくかを考えるのが、サスティナブルなやり方なんです。
ーー環境に適合してもらうみたいなことですか?
適合してもらって、問題があるときはUNHCRが支援をする。
例えば、彼らが中々仕事に就けないときに、UNHCRは起業を促している。もしスタートアップのときの100ドルがどうしても必要であれば、ファイナンシャルな部分でもUNHCRが支援する。
外務省職員から国連職員へ転職して思った事
ーー国連職員のお仕事はいかがでしたか?
国連職員は、良くも悪くも、官僚機構なんです。だから、民間出身者など、官僚じゃなかった人が国連をやると新鮮だしもっと感じるものがあったと思うんです。
自分は外交官として9年半、日本の官僚をやった後に国際官僚になったので、マイナーチェンジなんです。大まかにというと、立場が変わっただけというか、大使館で国際協力に携わるか、国際機関で携わるかの違い。
元々、アフガン時代は国連の人と一緒に働いていましたし、この立ち位置が逆転してるだけで、見える景色っていうのは、それほど変わってないというのが第1印象です。
もちろん、やりがいとか期待度とかも高いし、今まで見られていない、色々な難民の人たちの生活を見て視野も広がるんですけれど、もっと違う世界も見たいっていうのも感じました。
国連職員としての「やりがい」
ーー国連職員として、達成感を感じたこととかやりがいを感じたところを教えてください。
自分の経験もあるけど、ドナーとの関係を結構メインでやっていました。いろんな大使館の人たちとの関係を調整してました。
日本の大使館の担当も当然日本人ですし、日本の大使の難民キャンプ視察をアレンジし、その映像を撮って広報に使用する一連の流れを計画したりもしました。
私が日本人なのもあってか、日本の大使館からも積極的にサポートしてあげようという空気を感じました。おかげさまで手厚くサポートしてもらって、うまくできました。
私が持っている1枚の写真にこんなものがあります。
右側にヨルダン政府の難民キャンプ担当者とUNHCR関係者、私が真ん中に立って、左側にいる日本の大使館の人たちに紹介している。
自分のこれまでの10年を、1つのスナップに全部収めたような写真になっていまして。
自分自身の集大成みたいな感じで、象徴的な1枚です。
国連に対する期待と批判
ーー仕事を通して、国連、あるいはUNHCRはどのように映りましたか?
良くも悪くも期待度が高いんです。みんなから期待してもらえる組織だから、やりがいがある。
でも期待を裏切ることがあったら、失望も大きいので、つらい状況に陥る可能性もある組織なのかなと思います。
UNHCRと難民問題
ーー世間で国連批判が起こることもありますが、それは期待の裏返しなのでしょうか?
難民は、難民、国内避難民、亡命者などを全部合わせると、現在1.1億人いると言われています。日本の人口に匹敵しそうなレベルなんですよ。もう、すごい勢いで増えています。
日本の人口に匹敵するぐらいの規模に対して、私が働いていた2021年当時で、UNHCRの予算は大体5000~6000億なんです。
確かにUNHCRは難民行政の関係者のなかでもキープレーヤーではあるけれども、難民支援をするときの一番重要な責務を持ってるのは、あくまで主権国家であって、主権国家がまずは一時的に難民を保護することになってるんです。
その難民をサポートするのが、UNHCRっていう建前になっています。
UNHCRにそこまで権限もなければ、実は、力もそこまでないんだけれども、期待値で考えると、難民行政が失敗したら、全てUNHCRのせいになってしまう状況もあり得ます。
日本と移民
ーー日本にも移民に対する議論がありますが、国際的な感覚で考えると、日本はもう少し移民を受け入れた方がいいと思いますか?
ここで大事なのは、難民と移民の区別です。
多くの場合、国が難民を受け入れるのは義務なんです。ノン・ルーフールマンっていう原則があって、生命の危険がある人を危険な国に戻したら、人道上よろしくないということで国際法違反となります。
だから、国際法の原則では難民は保護しないといけないんです。
移民は国家の裁量
しかし移民の受け入れは、主権国家の裁量になってくる。
絶対に受け入れないといけないみたいな義務はない。だから、少子高齢化で今後労働力が必要など、国家のニーズに応じて受け入れるか判断すれば良い。
移民に頼りますか?それとも、AIとか人工知能とかイノベーションでどうにかしますか?と国民に問うて「移民は嫌です」って結論になれば、それは一つの主権国家としての判断になります。
G7の主要先進国である日本では、難民認定率の問題が指摘されたりしますが、自分は難民認定率は問題視しません。
そもそも、難民である可能性が低い方々が多く難民申請しているなど、他国と単純に認定率を比べるのは、ミスリーディングです。
その一方で、難民受け入れの絶対数は、悩ましい課題です。
アメリカは2万人以上、ドイツは3万人以上など、主要先進国が難民を数万人受け入れる中で、日本は数百人というのは少しおかしい気もします。
ですが、難民を社会に包摂していくプロセスを考えると、日本は欧米諸国とは前提条件が異なるのも事実です。
[ 文:隅田愛莉 / 編集:はる]
[撮影:梨本和成 / デザイン:松谷萌花]