#5【最終回】大学4年で就職なんて「ほぼ不可能」?野村訓市が日本の若者へ語る「一度外に出てみる」ことの圧倒的重要性

野村訓市(のむら・くんいち)

1973年生まれ、東京出身。ライター、インテリアデザイナー、俳優、ラジオパーソナリティなど多方面で活躍するマルチクリエイター。

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、世界各国を旅し、1999年には辻堂海岸で海の家「sputnik」をプロデュースする。

店舗設計事務所「TRIPSTER」主宰。映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)や『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)に出演。映画『犬ヶ島』では原案に関わるなど、国際的な作品にも活躍する。

自由とは何か

ーー今、野村さんが欲しいものはありますか?

 あんまり欲しいものはないかな。

昔は、お金がないからやりたくないことも受けなければ生きていけないっていうのがあった。でも今は嫌だったら嫌だって正直に断れるから、無理してまでお金を欲しいとは思わない。

高額な予算で「これやりませんか」って持ち掛けられて「やりません」って言うと、「オファー額が低いですか」とか言われるんだけど、そういうことじゃない。自分の好きじゃないものを売る仕事はしたくないっていうだけ。そこに限りある時間を使いたくない。

自由は好きな事を好きな時間にできることだけじゃなくて、「断れる自分でいる」ってことでもあると思う。

欲しいものはないけど、もう少し良い世の中になってほしいとは思うね。

寛容さと生きにくさ

ーー今の世の中のどんなところが問題だと思いますか?

最近はデジタル化のせいであからさまなフェイクを信じたり、極論が増えたりしてきてると思う。言葉尻を取って右とか左って決めつけるようになっているところとか。

アメリカもしかり、日本みたいに先進国と言われているわりに経済問題や格差が深刻な国は、似たり寄ったりな気がする。都合の悪いニュースは見なかったり、「こいつが悪だ!」って盲目的に信じたり。そういう今の世の中は嫌だなって思ってて。

例えば、選挙で勝ったある政党の支持率が6割だとしたら、それを尊重した政策をやるけど、残りの4割にも配慮するし切り捨てないっていうのが昔の世の中だった。でも今は勝った人が総取りみたいな世の中になってきてる気がするんだよ。

生きやすい社会にするために

俺はそういう世の中はどうなのかなって疑問に思う。もう少し寛容な世の中になってほしい。そうすれば生きやすいはず。

価値観の押しつけも良くないと思う。例えばLGBTQも「気に食わない」みたいな理由で反対するのはおかしいわけで。自分がストレートだとして、ゲイの子同士が付き合ってても何も悪影響はないんだから、いいんじゃないかなと思うけどね。なんで反対するのか本当によくわからない。

あとは特定の職業の人を「先生」って呼ぶ文化もなくなるといいかな。

アメリカに行ったときにびっくりしたのが、先生の事をみんな名前で呼ぶんだよ。尊敬を込めて”ミスター”をつけることもあるけど、「マイク」って名前で呼ばれてる先生もいた。

「先生」とか「社長」っていうと聖人みたいで本人も周りも勘違いして忖度するから、個人名で呼べばいいんじゃないかと思う。大学生のみんなの世代から変えていった方がいいよ。

自分たちが年下にフランクに接したり、親切にしたりすれば変えられるんじゃないかと。自分より下の世代から見れば確実に自分は年上なんだから。

  編集力は万能スキル

ーー学生へアドバイスはありますか?

大学に入るときに勉強したことで一番役に立ったことは、小論文だった。

学生時代に学んだことの中でも一番かも。小論文の塾でやっていたのが、3つの新聞の切り抜きを要約し自分の考えを3000字程度で述べよというもの。

世の中で働く上で、何か物を作るとき、ゼロから作り上げることはできない。ある素材を編集して作り上げていくことになるでしょ?。つまりクライアントとその先にいるお客さんの要望と、自分たちに出来る事を、小論文のようにまとめていく作業が必要なわけ。

どんな仕事も小論文

俺はスプートニクを27歳の時に出版した後から、時間はかかったけど編集やライターの仕事をするようになった。そのうちに、どんな仕事も小論みたいなものだと気づいた。

自分がやりたいことと、雑誌のカラーとその先の読者を考えた上で、企画を立てなければ無意味なものになる。

海の家も毎年やってたけど、デザインをゼロから考えることはできない。ただ色々なレファレンスがあって、それらを絞り込んで考えていくとなると、雑誌とあまり変わらないんだよ。

だから編集力を磨くことは、みんなの将来にとても役立つと思う。

若者よ外へ出よ

今の日本の学生は4年で大学を卒業して就職することが多いけど、それはほぼ不可能なことだと思う。

ヨーロッパでは、1年休学して旅行したり他のことをしたりして、そこで初めて3年生以降の専攻を決める学生が多いんだよね。お金に余裕がない子もいるかもしれないけど、アルバイトをすれば何とかなる。

俺は「付属校上がりのボンボンだからそんなことが出来たんでしょ」と言われることもあるけど、全部自分のお金で賄ってきたし、お金なんて全然なかった。

例えば、クラブが好きで、「1年間ヨーロッパのクラブで遊び倒すぞ」と決めて行ったとしても、感じることはある。勉強であれ遊びであれ、そういう時間を持って外に出てみることが大切だと思う。

人間関係の極意は「感謝」

 ーー人との関わり方で大切にしていることはありますか?

くだらないことだけど、ありがとうと感謝することが大切だと思う。実は幼稚園で習うようなことが、社会に出るととても大事になる。

でも出来ない人が多い。

俺も忙しい時に感謝を忘れるようになったことがあった。ある程度仕事をするようになると、周りも忖度して注意しないからこれは駄目だなと思う。

世の中の色んなことに関心を

俺は高校時代、友達が興味を持つようなことには興味を持てずにいた。だから部活だけは学校でやって、それ以外は学校外の人と、広範囲に様々なことをやってた。結果的に雑学王みたいになって、それが役に立ってる。

アメリカでスポーツバーに行くとバスケの話で延々と盛り上がるし、イギリスのパブに行ったらサッカーの話が出来る。そこからマンチェスターサウンドの話になって、「お前詳しいな」って言われて、「今日ライブあるけど一緒に行くか」って現地のライブに誘われたりした。

よく「英語を覚えて海外で友達を作りたいです」ってラジオでメールが届くんだけど、英語が話せるからって海外で友達が出来るわけじゃない。どこに行っても話すネタがなきゃ話せない。趣味が一緒の人としか話せなかったら、圧倒的に幅が狭くなる。

だからいろんなことに興味を持つことは役に立つんじゃないかな。

【文:市川理紗子 / 編集:吉中智哉】

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