#3 「夢かお金か」の結論言います:ユニクロコラボ見て学んだ「金を作ってから好きなことをやる」目から鱗の戦略とは?

野村訓市(のむら・くんいち)
1973年生まれ、東京出身。ライター、インテリアデザイナー、俳優、ラジオパーソナリティなど多方面で活躍するマルチクリエイター。
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、世界各国を旅し、1999年には辻堂海岸で海の家「sputnik」をプロデュースする。
店舗設計事務所「TRIPSTER」主宰。映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)や『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)に出演。映画『犬ヶ島』では原案に関わるなど、国際的な作品にも活躍する。
夢かお金か
ーー夢を追いかけるべきなのか、お金を稼ぐべきなのか迷う学生が多いですが、野村さんはどう考えますか?
お金がないながら好きなことだけを愚直にやって大きくするっていうのも手だけど、別のことで金を作って、自分の憧れてたものを買うっていうやり方があるって衝撃を受けたことがあって。
アスクルっていう事務用品を扱う会社がある。アスクルは元々プラスっていう文房具屋さんの社内ベンチャーだった。ホッチキスとかクリップとか作っている会社で、これ以上文房具は売れないからどうするかっていうときに、岩田さんっていう人が手を挙げて社内のベンチャープロジェクトで作ったのがアスクルだったはず。

オフィス用品を買いに行ったり補充したりするのが面倒くさいから、FAXで会社の事務用品を頼んだら全部倉庫に入れておいてくれて、次の日に発送されてすぐ届くっていうのを考えたのがアスクル。
岩田さんがオフィスに特化したアマゾンみたいなことを考えて、段々オフィスの椅子や机とかも全部カタログに入っていった。アスクルで頼むと、明日会社を始めるって言ったら事務用品が全部そろうような感じで。
IDEEとアスクル
IDEEは規模は小さいけれど、世界中にデザイナーのネットワークがあって、著名なデザイナーを発掘した歴史もあったから知られた存在で、金はないけれど好きなことをして、デザイン史に残るような仕事をしてる、というのが皆の誇りであり、アイデンティティだった。
たとえになるかわからないけれど、ギャルソンとユニクロみたいなものかな。
ところがあるときからIDEEとアスクルが一緒に仕事をすることになって、岩田さんが「IDEEさんは本当にすごいデザインを持ってて世界でも知られてる。うちは地道に文房具を売って大きくなったけれど、これからはよいデザインのものを作っていきたい。皆さんの力をかりてクールにしてください。」みたいなことを言ったんだ。
IDEEの社長は何十年もかけて培ったコネはあるけど、すごいデザイナーのものだと年に10個とかしか売れない、高すぎて。でも、アスクルと組むと遥かに安い値段で何百台って売ることが出来る。
好きなことをやり続けて、だんだん規模が大きくなったり売り上げが上がるのが正攻法のやり方で、嫌なこと、ダサいことして仕事するなんていやだと思っていたんだけれど。
金をまず作ってからやりたいことやるっていう進め方もあるんだと知ったことが目から鱗だったわけ。こういう方法もあるんだよね。ファッションに関しても同じだよ。
ファストファッションとデザイナー
昔はユニクロみたいなファストファッションに回りも「くそダセえくそダセえ」って言ってたけど、今はそんなことない。
もちろん高品質のものを作ったり、ちゃんとしているということが認知されてきたからだとおもうけれど、そもそもデザイナーとコラボしてきたからっていうこともあると思うんだよね
例えば、グラフィティのFutura(フューチュラ)がいる。フューチュラは NIGO達と仕事するときに日本に来ていて、俺は取材してから仲良くていつもそんな時に会ってたんだけど。
*編集注:「NIGO」HUMAN MADE、A BATHING APEの創業者、アパレルディレクター、現KENZOアーティスティックディレクター

ある日、原宿の道を歩いてたらフューチュラがいて。「日本にいたのになんで連絡くれなかったの?」って言ったら、「ちょっと仕事で」とかいうから「またベイプギャラリーでなんかやんの?」って飯に誘ったんだよね。
そしたらユニクロUTとのコラボで日本に来てて「えー!」ってなった。すごいギャラだというし、その頃はまだ誰もコラボをしてなくて、魂を金に売るのか!みたいなところがあった。
けれどデザイナーとしてはより多くの人に自分のデザインした服を着て欲しいわけなんだよね、普通に。
ファストファッションは好条件なんだよ。1回で1〜2万枚作れるし、安く作ることが出来る。そしてそうやってフューチュラがコラボをすると、後輩アーティストも彼がやったブランドなら、って仕事を受けるようになるし。

成功してから好きなことをする
今ではユニクロとコラボしても当時みたいなギャラは貰えないらしい。逆に彼らとコラボできると箔がつくと思われるようになった。立場逆転。
いま、ユニクロがやりたいと思ってできないコラボ相手ってあまりいないんじゃないかな。
だから、そういうやり方もあるわけ。 若い頃からかっこいいことや好きなことだけ追求しなくても、別のことで金を作ってそこから好きにやるっていうね。
そのお金で自分の好きなもの、かっこいいと思うものを買うことも出来るわけだから。
俺はそういう風にはやっていないけれど、もう手遅れだしね(笑)
高額オファーでも魂は譲らない
ーーお金に揺らぎそうなことは1度もありませんか?
ないかな。そこまでの金額を言われたこともないけど、一度5000万を提案されたことはあるよ。
「2年で1億で、そこからインテンシブ契約してくれ」と言われて断ったけど。そんなオファー貰ったことなかった。
提示された条件が、「他の仕事ができない」ことと、「自分が買わない商品のマーケティングとプロモーションを行う」ことだった。
初めて断られたらしく、相手の社長秘書から「理由を教えてくれ」と連絡があった。「おたくの製品をいいと思ったことがないからできない」って答えた。 秘書さんは絶句してた(笑)

細く長く好きをやる幸せ
金額が遥かに小さくても、好きなものを作る仕事が出来る方がやりがいはある。
一度にたくさんのお金をもらうより、金額は小さくても好きなことを長く続けられる方がいいんじゃないかなって自分は思ってる。
アイドルや歌手みたいに、バーンとはねてすごい儲けたけど、旬が過ぎちゃったり、売れたときのカラーが強すぎたりして、その後中々うまくいかないこともあるじゃない。
でも本当は表に出る仕事が好きなのに、っていうのとさ、そんなに売れないけど地道なインディーズバンドで固定ファンがいて、好きな音楽を10年間好きなライブハウスでできるのってどっちが幸せだと思う。
俺は好きなことを長くやれる方が遥かに幸せなんじゃないかなって思ってる。
【文:相木大空 / 編集:東濱理沙】
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