#6 人生を変えた竹内弘高先生との出会い 会社員でMBAを取得しバブソン大学で起業学を教えるまでになった山川恭弘さんのキャリアストーリー
日本での社会人生活を送る中で、米国の大学院進学は、山川恭弘さんにとってもとてもハードルの高い一歩でした。
その中で山川さんを支えてくれた先生方やサラリーマン時代の会社の同期の方など、様々な人が山川さんをサポートしてくれたみたいです。
第6回では、そのような周囲の人が与える影響の重要性を具体的な経験を基に伺いました!
また、最後には山川さん自身の人生論についてもお話頂きました。
【山川恭弘さん】
慶應義塾大学法学部を卒業後、カリフォルニア州クレアモントにあるピーター・ドラッカー経営大学院にて経営学修士(MBA)を取得。その後、テキサス州立大学ダラス校にて国際経営学博士号(Ph.D.)を取得。2009年度よりバブソン大学准教授を務める。
専門はアントレプレナーシップで、学部生、MBA、エグゼクティブを対象とした講義を担当。日本国内の複数大学で教鞭を執る他、経済産業省J-Startup推薦委員、文部科学省起業教育有識者委員会のメンバーとしても活躍している。
目次
竹内弘高先生との出会い
一橋大学の学長を務めていた竹内弘高先生(現在はハーバード大学所属)との出会いは、私の人生を大きく変えました。
アメリカでの進学を目指していた頃、まずは海外の大学での学びについてしっかりと理解しないといけない、と考え、さまざまな大学の先生方に連絡を取ることにしました。当時はまだスマホも普及しておらず、秘書さんを通じて電話をかけましたが、多くの先生には取り次いでもらえませんでした。そんな中、唯一対応してくださったのが竹内先生でした。
「挑戦したいので少しお話を伺いたい」と電話でお願いすると、竹内先生は「有楽町の帝国ホテルのロビーで」と快く招いてくださいました。
当時、帝国ホテルは私にとって敷居が高い場所で、コーヒー1杯に2,000〜3,000円もかかると聞いていたので、緊張しながら向かいました。ロビーで待っていると、黒いスーツに靴下なしの黒いローファー、リーゼント風の髪型の、少し風変わりな方が現れました。
一瞬身構えましたが、それが竹内先生だったのです。
アメリカに行ったら1番になるまで帰ってくるな
10分程度の会話を想定していましたが、先生は1時間以上も私の話をじっくり聞いてアドバイスをしてくれました。この出会いは単なる激励にとどまらず、私に挑戦するための大きな自信を与えてくれました。
「何に興味があるのか?」と聞かれ、「アントレプレナーシップです」と答えた私に、「君は目がいいから、それを極めなさい」と言われました。そして、「アメリカに行ったなら、そこで一番になるまでは帰ってくるな」と力強くアドバイスをもらったのです。
さらに、竹内先生は「バブソンという大学があるから、そこを目指せ」とも言われました。その後すっかり忘れてしまっていましたが、思い返してみると、竹内先生の領域展開内でものごとが進んでいたのかもしれません。
竹内先生と思わぬ場所での再会
竹内弘高先生と再会したのは、私がバブソン大学の教員として、日本に学生たちを連れてく「ジャパントレック」というプログラムを実施していたときです。
この授業は、バブソンの学生から「日本に関する授業をつくってほしい」と依頼され、実現したものでした。バブソンでは教員が独自に授業を開発でき、試験的に数回実施してから、正式なプログラムにするかどうかが判断されます。
日本滞在中、学生たちと寿司作り体験のために訪れた寿司店で、トイレに立った際、ばったり竹内先生と出会いました。「竹内先生、何をされているんですか?」と尋ねると、「ハーバードの学生を連れてきているんだよ」とのこと。私も「バブソンの学生を連れてきています」と伝えると、お互いに驚き、笑い合いました。
この偶然の再会は、私たちの間に特別な縁を感じさせるものでした。竹内先生とは頻繁に連絡を取り合うわけではありませんが、人生の節目に必ず関わってくださる、大切な存在です。
竹内先生への恩
2017年から、私は2つの会社(姉妹組織):「ベンチャーカフェ」と「CIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター)」という起業家コミュニティの立ち上げに関わりました。私にとって非常に大きな挑戦でした。
最初はアドバイザーとして関わっていましたが、CIC本国本部のCEOであるティム・ロウからは「いつ正式に参画するんだ?」と何度も熱心に声をかけられました。
迷っていた私に対し、ある日、ティムが「ボストンのホテルで朝食を取りながら話そう」と持ちかけてきました。そして、その席に現れたのが竹内先生でした。
その席で、竹内先生は終始私の立場に寄り添い、全面的にサポートしてくれました。当時、アメリカでバブソンの教員として実績を積んだ私が、日本の実務プロジェクトに関わることでキャリアが大きく揺らぐのではないかと先生は心配していたのです。
日米両国で成功を収めるのは容易なことではなく、私の身の周りでは、竹内先生や伊藤穰一さんの例しかなく、慎重に見極める必要がありました。
先生は常に私の味方でいてくれ、私が最善の決断をできるように支えてくれたのです。
いつも支えてくれる大切な人たち
振り返ってみると、私の人生には竹内先生のように、節目の場面でそばにいて支えてくれる存在が何人もいました。もちろん、その後ティムからも多大なるメンタリングを通じて、さまざまなプロジェクトを遂行する仲になりました。
そして、それは必ずしも特別な人物である必要はありません。おじいちゃんやおばあちゃん、親しい友人や家族でも構わないのです。
大事なのは、自分にとって耳が痛いことも遠慮なく指摘してくれる人、時には自分の考えに反対してくれる人の存在です。そんな人たちは、自分が聞きたくないことでも正直に伝えてくれたり、自分が聞きにくいことでも真摯に応えてくれる。
そうした関係こそ、人生の宝物であり、大切にするべきものだと思っています。
伊藤穰一さんとの繋がりがもたらしたもの
ちなみに、先ほど話に出た伊藤穰一さんとはその後、さまざまな形でつながりを深めることができました。
私が著書を出版した際には、伊藤さんに帯の推薦文を書いていただくという光栄な機会にも恵まれました。
歴史とは、どのような人たちと出会い、共に歩んできたかによって形作られるものです。
だからこそ、人とのつながりの重要性を心から実感しています。そして、そのつながりが生み出す力こそが、未来を切り拓く大きな支えとなるのです。
ドラッガー最後の生徒になった大学院時代
ーーアメリカの大学院時代の思い出を教えてください。
ピータードラッカーのMBAを取りに行ったため、当然ピータードラッカー本人とも会うことができましたし、授業も取ることができましたし、その他の先生たちも素敵すぎました。
大学院時代、私は授業に出席するだけではなく、教授たちとの関係を積極的に深める工夫を重ねました。時には、少し「抜け目がない」と思われるような手段を取ることもありました(笑)。
たとえば、教授の自宅を訪問することで、より親密な関係を築けると考えて行動していました。「最終課題が完成したので、ぜひ直接お届けしたいのですが、ご自宅に伺ってもよろしいでしょうか?」とお願いして、課題を届けるついでに訪問することもありました。
このようにして、名目上は課題提出でも、実際には教授との距離を縮めるためのきっかけをつくっていました。少し策略的だったかもしれませんが、そのおかげで多くの先生方と深い信頼関係を築くことができたのです。
慶應在学中に勉強しなかった後悔とコンプレックス
MBAを学びに海外に行くと、実際はみんな楽しむことにも注力します。
日本の職場では幅広い業務をこなすことが当たり前で、「これは自分の担当ではない」と言えず、多忙な生活を送ることが普通です。そんな環境から解放されて、せっかくアメリカに来たのだから、自由な時間を楽しもうというのが一般的な姿でした。
確かにアメリカにわざわざMBAを取りに来れるんだから、空いた時間は色々なことをして遊ぶべきです。ですが、私は勉強にハマってしまったのです(笑)
誰よりも早く図書館に行き、誰よりも長く残って勉強を続け、さらにさまざまな人と交流することに力を入れていました。MBA2年間そんな生活を続けていた理由は、大学時代にあまり勉強しなかったという後悔がずっと心の中にあったからです。
コンプレックスを情熱へ
私は大学生の時に勉学に励むことを疎かにしていました。そのため、普段は口にはしませんが、知識や経験など、周りに対してものすごくコンプレックスがありました。
「もっと学びたい」という気持ちはずっとあった中、MBA留学というチャンスを得たことで、学びに対する情熱に火がつきました。
「博士号も取りたい」「学問の世界に入って、この知識を実務に生かしていきたい」想いが強まり、こうして学問と実務のバランスをうまく取ることができたのが、私にとって理想的な環境であるバブソン大学でした。
「お前はアホか」と言われて博士課程へ
ーー修士号取得後はどのような道を歩まれましたか?
私がMBAを取得したのは、まだ会社に在籍していた頃です。会社から援助をいただいたので、取締役に感謝のおもいを伝え、その後も数年ほど勤務を続けていました。
ところが、次第に「今度は博士号も取得したい」という想いが強くなり、再び会社に費用支援のお願いをしました。その際、取締役からは「お前はアホか」と笑われたものの(笑)、会社を一時休職し、博士課程に進む決断をしたのです。
休職かっこ悪い
留学中に何度か帰国する機会があり、会社の同期である女性社員と話す機会がありました。そこで彼女から予想外の厳しい指摘を受けたのです。
「山川くん、ちょっと格好悪いよ。挑戦してるのに、失敗を想定して休職して戻れるようにしてるんでしょ?それじゃあなたらしくない」と、面と向かって指摘されたのです(笑)。その言葉は、冗談ではなく真剣でした。
内心グサッと刺さるものがあり、自分がまだ決意しきれていないことに気づかされました。そこで会社を辞め、退路を断ち、もう前に進むしかない状況をつくりました。
学問と実務を繋げる仕事
同僚の言葉に背中を押され、博士号を取得してからは日本に戻らず、アメリカでその学びを最大限に活かそうと決意しました。
私が設定した目標は、「アントレプレナーシップ(起業家精神)の学問と実践をつなげる」ことでした。
学問と実務は往々にして別物として捉えられがちです。しかし、私はその2つを行き来する存在になり、学問で得た知見を実際の現場で活かしたいと考えました。そ
研究重視のリサーチスクールと教育重視のティーチングスクールの選択肢がありましたが、中途半端ではなく、有名でブランド力があり、研究と教育の両方を追求できる環境を選びたいと思いました。
それがバブソン大学だったのです。
若人へのアドバイス : 計画は変えていい
これまでの人生を振り返ると、アイスホッケーをはじめ、何をするにしてもその時その時で全力を尽くしてきました。「なんとなく」ではなく、最大限の意思決定をして、その時のベストな道を選んできたつもりです。
大学在学中も、法学部に入ったからには弁護士を目指そうと考え、アイスホッケーからも一旦身を引き、法律家を目指すため予備校に通う道を選んだこともありました。
私の人生は計画したものではありません。だからみなさんもあまり計画しすぎない方がいいと思います。
人生はあまり計画通りにはいかないということです。ですから、後輩のみなさんには「計画に縛られないで」と伝えたいと思います。あまりに計画に固執すると、自分の発想の枠内でしか生きられなくなります
全力だから悔いがない
もちろん、はっきりとした目標を持ち、そこに向かって計画的に歩むのが向いている人もいるでしょう。しかし、多くの人にとっては、柔軟に進路を変えながらその時々で最善を尽くすことのほうが、結果として納得のいく道につながるのではないでしょうか。
自分が今振り返って言いたいのは、回り道したと思っていませんし、その時点で一生懸命だったから、もう一度やり直すとしても同じ選択をするだろうと感じます。
その時々の経験や出来事を受け入れ、必要に応じて方向を修正しながら進んできた結果、今は後悔のない道を歩んでいると感じています。だからこそ、計画は状況に応じて変えてよいものだと思います。
柔軟さを大切に、恐れずに新しい道を切り拓いてほしいです!
[ 文:若林千紘、舩越英資 / 編集:吉中智哉]
[写真:梨本和成 / デザイン:舩越英資]
\ 編集部PickUp /
今回取材した山川恭弘さんの単著『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』が、2024年5月に発売されました。
本書は、世界トップクラスの起業家教育で名高いバブソン大学での豊富な経験をもとに、アントレプレナーシップの本質と、それを実現するための具体的な方法を丁寧に解説しています。「起業」という枠を超えて、自分自身の可能性を引き出し、未来を切り拓くためのヒントが満載なため、大学生だけではなく新卒社会人の方々にも特にオススメです。
アントレプレナーシップは、起業家だけのものではありません。どのような仕事やキャリアにも活かせる普遍的なスキルです。本書では、「失敗を恐れず挑戦するマインドセット」や「アイデアを形にするプロセス」が、実際の事例を交えながらわかりやすく解説されています。それ以上に、「もう一歩前へ」という熱いメッセージが、何度も何度も繰り返し登場します!
失敗に対するマインドが変わるだけではなく、夜に読むと眠れなくなるぐらい行動したくなります。大学生活は、新しい挑戦に最適な時期。本書は、その一歩を後押ししてくれる心強いガイドとなります。「自分の未来を自分で作りたい」「挑戦したいけれど一歩が踏み出せない」という方に、ぜひオススメしたい一冊です!
投稿者プロフィール
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探究ゼミでは、これから社会に出る人、出て間もない人向けにキャリアに関する情報を発信しております。仕事を通して人や社会と関わることを応援するメディアです。
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