#2 失敗すると成績が上がる?!失敗を恐れない起業家を育む!バブソン大学山川恭弘さんのユニークな授業

「失敗すればするほど成績が上がる」。

一見すると矛盾しているように思えるこの評価基準が、起業家教育で世界トップクラスを誇るバブソン大学で実際に行われています。ここで教鞭を執る山川恭弘さんは、失敗を成功への貴重なプロセスと捉え、学生たちに失敗を恐れず挑戦する姿勢を身につけさせることに全力を注いでいます。

失敗のアカデミー賞や「Failure is Good!」と題した特別講義など、ユニークで革新的な取り組みの数々。失敗を学びのきっかけとしてポジティブに捉える姿勢は、日本の教育ではまだ馴染みの薄いスタイルです。

今回は、そんな失敗を奨励するバブソン大学の教育について、山川さんへのインタビューを通じて深掘りします!

【山川恭弘さん】

慶應義塾大学法学部を卒業後、カリフォルニア州クレアモントにあるピーター・ドラッカー経営大学院にて経営学修士(MBA)を取得。その後、テキサス州立大学ダラス校にて国際経営学博士号(Ph.D.)を取得。2009年度よりバブソン大学准教授を務める。

専門はアントレプレナーシップで、学部生、MBA、エグゼクティブを対象とした講義を担当。日本国内の複数大学で教鞭を執る他、経済産業省J-Startup推薦委員、文部科学省起業教育有識者委員会のメンバーとしても活躍している。

失敗すると成績が上がるバブソン大学の授業

バブソン大学には、1年生全員が「起業する」必修授業があります。約600人の学生が約40人ずつ20クラスに分かれ、それぞれが実際にビジネスを立ち上げます。

各クラスで3〜4つのビジネスが生まれ、それぞれに30〜40万円ほどの投資が行われます。この授業はバブソン大学を象徴する看板プログラムで、多くの学生がこのk授業を目当てに入学してきます。

授業での評価基準は、ビジネスの売上ではなく「どれだけ学んだか」です。成功すればするほど良い成績がつくわけではなく、むしろ失敗すればするほど学びが大きくなるため先生が喜びます。学生たちは「こんな失敗からこんな学びを得ました」とプレゼンを行い、その内容が評価されます。

この授業のインセンティブは、「挑戦して実験し、なるべく多く失敗すること」です。その失敗を自慢することで成績が向上します。

失敗するほど成績が上がるため、この授業を終えた学生は失敗を恐れなくなり、むしろ「失敗したい」と思うようになります。

この授業を通して、学生の考え方が大きく変わります。失敗は当たり前のことで、むしろ失敗したほうが成績が上がるという考え方は、日本にはあまり見られません。

日本には「失敗を教える授業」自体が存在しないので、この考え方は非常に新鮮です。

“Failure is Good!”山川恭弘さんが教える「失敗学」の授業

ーー山川さんの授業はどのような授業ですか?

私が教えている授業のひとつに “Failure is Good!” (*編集訳「失敗は最高!」)というものがあり、ゲストスピーカーを呼んでは、ひたすら失敗の話をしてもらいます。

ゲストは起業家だけではなく、企業内起業家や投資家、スポーツ選手、芸術家、画家、時には近くの歯医者さんなど様々です。これが大好評で、90分の授業ですが、スピーカーが20〜30分話すと、学生は我先にと手を挙げ、残りの60分は質疑応答だけで終わったりします。

「先生は授業しなくていいです。素晴らしいゲストスピーカーたちを呼んでください。」と言われるくらい、リアルな人たちの失敗体験は、自分事として考えられる貴重な機会です。

珍しい授業だからこそ、アントレプレナーシップという文脈の上で教えられているのはとても有意義ですし、日本のみんなにも授業を聴講しに来てほしいと思っています。

失敗が当たり前という環境は強いです。それは今でいう心理的安全になります。失敗を認められるか、人に失敗の話を共有できるか、失敗を認めるのもとても大変です。

一方で失敗を共有しなければ、同じような失敗が沢山起こってしまうし、組織としては進化が望めません。

失敗のアカデミー賞

1年生の授業にアカデミー賞のような失敗を祝うセレモニーがあります。

「予想外のサプライヤーとのドラマで賞」や「揉めちゃったで賞」、さらには「史上最強の方向転換だったで賞」など、面白い名前をつけます。祝賀会では、会場にレッドカーペットを敷いて、皆スーツやタキシードでドレスアップします。

実際に3Dプリンターで作成されたトロフィーを受け取ると、壇上で自信満々に「この失敗に貢献してくれた全ての皆さんありがとう!」とスピーチをやってのけます。

日本の皆さんはあまり見たことが無いかもしれませんが、大学1年生の段階で、これほど失敗の寛容度を高められる経験は、必ず学生の強みになります。

この取り組みを通じて、学生たちは「次はどんな失敗の賞を狙おうか」と考えるようになり、より高い質の挑戦と失敗を目指します。それが完全に失敗を奨励するということです。

5人に1人が起業するバブソン大学の卒業生

ーーバブソン大学の学生にはどのような特徴がありますか?

学部生は、ビジネスに興味がある人もいれば、全く興味が無い人もいますし、学部に来る目的も様々です。

MBA(経営学修士)の学生を含めて、卒業生は20%近くが起業すると言われています。つまり、5人知り合いがいれば、その内1人は起業家になるということです。「自分は起業する気はないけれど、世界を変えるような起業家に会いたい」といった理由で進学を決める人もいます。

バブソン大学はマンモス大学ではないため、互いの顔と名前が一致した関係をつくることができます。世界をつくり、変えていくような人と会いたいという気持ちでバブソンにやってくる学生も多いのです。

全米1位を30年以上維持するアントレプレナーシップの授業内容も魅力的ですが、それ以上にバブソン大学に集まってくる人財(仲間)はユニークです。それだけでもバブソンには価値があると思っています。

リーダーだけでは波は起こせない

起業家と聞くと、強烈なリーダーシップやカリスマ性を持つ人物をイメージするかもしれませんが、もちろんバブソン大学の学生全員がそうというわけではありません。

皆リーダーになれと言われますが、皆がリーダーでは実際には何も起こりません。実際にはフォロワーの存在が不可欠です。リーダーがどれだけ優れていても、フォロワーがいなければ大きな波を起こすことはできません。

私自身も事業を起こしていますが、どちらかというと起業家を応援、支援する立場です。世界を変えようとして頑張っている人たちを応援、支援することで、世界をより良くしてほしいと思っています。

日本では「推し文化」が根付いているように、誰かを応援・支援することが得意な人が多いかもしれません。

挑戦者だけでなくて応援する人や支援する人も大事で、必ずしも自分が起業家になる必要はありません。大事なのは、課題を見つけて当事者意識を持ち、その解決に向けて動くチームの一員になることです。

起業を目指す大学生にメッセージ

ーーこれから起業を目指す大学生にメッセージをお願いします。

すごくベタでありきたりですが、本に書いてある3つのフレーズで「一歩踏み出せ、一歩踏み外せ、一歩はみ出せ」です。この言葉は簡単に聞こえますが、実践するのは非常に難しいものです。

考えて考え抜いて、一歩踏み出すのはものすごく大変です。多くの人は自分に与えられた道が正しいと思い込み、その道を外れることを恐れます。

しかし、もしかしたら、踏み外した方がいいかもしれない、もっと素敵な道が広がっているかもしれません。

その事実は一歩はみ出さないことには分かりません。この3つのフレーズを常に心に留めて、ぜひ行動に移してほしいと思います。その三つのフレーズを頭に置いておいてほしいです。

[ 文:川上友香梨 / 編集:吉中智哉]

[写真:梨本和成 / デザイン:舩越英資]

\ 編集部PickUp /

今回取材した山川恭弘さんの単著『バブソン大学で教えている 世界一のアントレプレナーシップ』が、2024年5月に発売されました。

本書は、世界トップクラスの起業家教育で名高いバブソン大学での豊富な経験をもとに、アントレプレナーシップの本質と、それを実現するための具体的な方法を丁寧に解説しています。「起業」という枠を超えて、自分自身の可能性を引き出し、未来を切り拓くためのヒントが満載なため、大学生だけではなく新卒社会人の方々にも特にオススメです。

アントレプレナーシップは、起業家だけのものではありません。どのような仕事やキャリアにも活かせる普遍的なスキルです。本書では、「失敗を恐れず挑戦するマインドセット」や「アイデアを形にするプロセス」が、実際の事例を交えながらわかりやすく解説されています。それ以上に、「もう一歩前へ」という熱いメッセージが、何度も何度も繰り返し登場します!

失敗に対するマインドが変わるだけではなく、夜に読むと眠れなくなるぐらい行動したくなります。大学生活は、新しい挑戦に最適な時期。本書は、その一歩を後押ししてくれる心強いガイドとなります。「自分の未来を自分で作りたい」「挑戦したいけれど一歩が踏み出せない」という方に、ぜひオススメしたい一冊です!

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探究ゼミ編集部
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