第3回:令和の米騒動は序章に過ぎない?!2025年に農業従事者80%減少する日本で、AIロボットは食を救えるか

菱木 豊(ひしき・ゆたか)
株式会社inaho 代表取締役。不動産・IT分野での事業経験を経て、2017年に株式会社inahoを創業。AIを活用した「自動収穫ロボット」を自社開発し、RaaSモデルでサービスを提供。持続可能な農業の実現を目指し、国内外で事業を展開。
目次
オランダと日本の農業の違い
ーー将来的に全国や世界に向けた事業拡大は考えていらっしゃいますか?
もちろん、IPO(株式公開)を目標としています。また、現時点でもグローバル展開をしていくための組織として、数年前からオランダに現地法人を作っています。
日本には農業系や農学部のある大学が多数ありますが、オランダには農業に特化した大学が一つしかありません。その分、優秀な研究者や知見がその大学に集約されているのです。
また、生育管理を担う「グローバー」と呼ばれる職業の社会的ステータスや年収は、弁護士と同等の水準にあります。日本のように「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージは全くありません。

農業従事者が8割減少する日本
ーー日本でも農業従事者の地位をオランダのように高めたいとお考えですか?
「地位を高めたいから」取り組んでいるわけではありません。ただ、結果的にそうなっていくと思っています。
将来的に農業従事者が8割減少する中で食料を支えるには、今の形のままでは不可能です。AIを活用した新しい農業の仕組みが大きな役割を担う必要があります。
そのためには農業がきちんと利益を出せる産業にならなければなりません。
実際、既存の農業法人の中にも表に出ていないだけで利益をしっかり出しているところはあります。そうした成功事例が増え、「農業は持続可能で稼げる産業だ」と認識されていくことが大切ですし、そのポテンシャルは十分にあると思います。

長期インターンと求める人材
ーー現在募集されている長期インターンは、どんな学生がいて、どんな人材を求めていますか?
技術系の学部で学んでいる方もいれば、文系の方もいて、幅広くという感じです。
求める人材について、当たり前かもしれませんが、言われたことをやるだけではなくて、自分の頭で考えて行動できること、前のめりに取り組むことができること。
今ちょうどインターンで来ている学生さんでもそれができる方はいらっしゃって、素敵だなと思います。
ミーティングの事前学習をきちんとしていたり、ミーティング後も分からなかった点を上司に確認したりして、自分で学習して進めていくプロセスをしっかりとやっていました。
自分の意思で能動的に動ける人にはぜひ来てもらいたいです。
ロボット好きな社員が多い?
ーーinahoさんのインターンでは、どのような仕事が体験できるのでしょうか?
インターンの方に任せる仕事は会社の状況次第です。例えば、ロボットの実測検証をする時は多くの人手が必要だったので、短期集中で募集をかけました。
それ以外だと、ロボットを動かしてデータを取ったり、エンジニアが開発したいことをインターンの方に伝えて、そのコンセプト案を出してもらったりしています。
「理系でロボット好きな学生が多い」というイメージを持たれるかもしれませんが、実際には非エンジニアも半数近くを占めています。営業職であったり、バックオフィス系です。
農業との関わりは畑以外にもある
ーー菱木さんが農業に抱くイメージを教えてください。
農家の方は本当に素晴らしい職業人だと思います。ただ、正直に言えば自分が現場で農作業を担うのは難しいと感じています。
でも、農業への関わり方は様々あっていいと思うんです。
畑仕事だけでなく、テクノロジーを使って現場課題を解決したり、広報を通じて社会に農業課題を伝えたりすることも大切です。
また、現場が畑であるからこその楽しさもあります。農家さんと仲良くなり、美味しい野菜を分けてもらえるような体験は、他の産業ではなかなか得られません。
農業従事者の83%がいなくなる?!
ーー農業は大きな市場価値がある一方で、多くの課題を抱えています。どのような意識で事業に取り組んでいますか?
食は人が必ず取るものですし、全員が携わる一番大事な部分です。
日本の人口は2020年から2050年の間に約13〜14%減少し、1億2000万人から1億500万人程度に減ると推計されています。
それに対して、 法人も含めた農業従事者は、 同じ30年間で約83%減ると言われているんです。
重大な課題ですけど、多くの大人はみんな知らない。 このまま生産性が変わらなければ、将来「食べ物が本当に足りない時代」が来る可能性があります。
みんなが安定的に安く食料を得られる環境を整えて初めて、やりたいことができる世界になるのではないかなっていう気がします。
2025年令和のコメ不足
ーー昨今のコメ不足に対して、どのように考えていらっしゃいますか?
2020年から2025年の5年間で、農業従事者は2割減りました。供給側が2割減っているのに、需要は変わらない。価格の高騰が起きるのは明白です。
さらにこれからの10年間で農業従事者は5割減ると言われています。これは避けられない事実です。その現実を受け止め、私たちにできることに着目し、行動を起こしていかなければなりません。
何も行動に移さずに、困った時だけ文句を言うことはできませんから。

菱木さんからのメッセージ
ーーこの記事を読んでくださっている皆さんに対して、メッセージがあればお願いします!
2020年から2050年の30年間で、農家の数が8割以上減少すると言われています。最近は米不足が話題になっていますが、それはまだ序章にすぎません。
農業従事者が8割いなくなった世界を、私たちは本当に想像できているでしょうか。
農家人口の減少や、それに伴う収穫量の減少は、農業に携わる人だけでなく、日本に暮らすすべての人に関わる重大な課題です。
この課題を「自分ごと」として捉え、解決に取り組みたいと思う方は、どんな形でもかまいません。一緒に農業を盛り上げ、未来の食を守っていきましょう!
【文:市川理紗子 / 編集:吉田遥希】
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