#4 アイデアは人に話して磨かれる!日米大学教育の違いと、自分に合った居場所の見つけ方【カオスvsコスモス】
「もっと自分のやりたいことをしたい」「でも、どうすればいいの?」
就職活動では「自分探し」という言葉がよく聞かれますが、いざ社会に出ると、「配属された部署がなんだか違う…」と感じることも少なくありません。
そんな悩みを乗り越えるヒントとして、今回は「カオス」と「コスモス」という二つの対比を用いながら、自分らしいキャリアを見つける視点をお届けします。
第4回では、日米両方の視点を持つ山川さんに、両国の起業環境や大学教育の違い、そして共通点についてお話を伺いました!
【山川恭弘さん】
慶應義塾大学法学部を卒業後、カリフォルニア州クレアモントにあるピーター・ドラッカー経営大学院にて経営学修士(MBA)を取得。その後、テキサス州立大学ダラス校にて国際経営学博士号(Ph.D.)を取得。2009年度よりバブソン大学准教授を務める。
専門はアントレプレナーシップで、学部生、MBA、エグゼクティブを対象とした講義を担当。日本国内の複数大学で教鞭を執る他、経済産業省J-Startup推薦委員、文部科学省起業教育有識者委員会のメンバーとしても活躍している。
目次
日本コスモスvs米国カオス
ーー新刊で「アメリカはカオス、日本はコスモス」と書かれていますが、その違いについて詳しく教えてください。
確かに、この対比は簡略化されているかもしれませんが、「カオス」と「コスモス」の違いを理解することは、どちらが自分に合っているのか考えるきっかけになると思います。
「カオスな社会」は変化が絶えず、予測が困難な状況を指します。しかし、混沌とした環境こそが、新しいアイデアを生み出す原動力ともなります。例えば、アメリカ東海岸のボストンは起業家精神が尊重される地域であり、革新的なアイデアを持つ人が高く評価されます。起業を目指すなら、積極的に「出る杭」として自己を表現する必要があります。
一方、「コスモス」とは秩序と調和が重視され、協力しながら一歩一歩進む社会です。これは日本社会の特徴に近いものがあります。日本では「出る杭は打たれる」という言葉があるように、個性的な要素が批判されることがあります。特異性を持つことが、しばしば否定的に受け取られがちです。
自分の居場所の探し方
ーーカオスとコスモスに優劣はあるのでしょうか?
どちらが良い、悪いということはありません。それぞれにメリットもデメリットもあり、単に性質が異なるだけです。
これを読んでいる皆さんには、ぜひ「自分にはどちらが合っているのか?」を考えていただきたいです。
たとえば、「日本の価値観で育ち、混沌の中で新しいものを生み出すのは苦手」と感じるなら、コスモス的な社会で自分の居場所を築く方が向いているかもしれません。
一方で、以下のような思いがある方は、出る杭が打たれない環境に身を置くことも選択肢です。
- 周りに合わせることを我慢している
- 自分の意見をはっきり言えないのが辛い
- 平凡であることに違和感を感じる
- 他と違うことにチャレンジしたい
日本にこだわらなくても大丈夫
日本で生まれたからといって、一生日本にいる必要はありません。将来、国境や通貨の概念が大きく変わるかもしれませんし、宇宙での生活が可能になる日が来るかもしれません。その時には「地球の住民」という概念すら曖昧になるでしょう。
極端な話でなくとも、海外での生活を視野に入れてもいいのではないでしょうか。日本ではアメリカが美化されがちですが、実際はただの選択肢の一つです。そこに行った人が賞賛されるのも、単に日本に居づらかっただけかもしれません。
自分の今までの環境にプラスして、これから自分がどうしたいかということを考えた結果です。キャリアを形成する上で日本にとどまる必要はないです。
自分のキャリア形成についても、海外での選択を含めて考えることが大切です。野茂英雄がメジャーリーグの第一人者として苦労したように、先駆者は困難を伴いますが、その後、多くの日本人選手が成功を収めてきました。
今では海外で生きている日本人も多く、彼らをロールモデルにすれば道は開けます。
選択できる幸せ
そもそもこうした「選択肢がある」ということ自体が、とても幸せなことです。戦時中や貧困の中では、学びたい、食べたい、寝たいといった基本的な欲求ですら満たせない人が多くいます。
しかし、この記事を読んでいる方は、基本的な欲求が満たされたうえで、自分の人生をどう生きるか考えられる立場にあります。
家があって、食べ物があって、着るものがあって、その上で「自分のキャリアどうしようかな」とか、「今プロジェクトのリーダーになりそうなんだけど、どうやってみんなを引っ張って行こうかな」と建設的なオプションを選べる立場にある。
選択肢がたくさんあるというのは、すごく素晴らしいことだと感じます。
アメリカにもある就活時の同調圧力
日本の大学生が就活でキャリアに悩むように、海外でも同様の悩みがあります。たとえば、バブソン大学の学生たちは多くの場合、次の3つの選択肢を迫られます。
- ①起業家になる
- ②ベンチャー・スタートアップに参画する
- ③組織・企業に勤める(非営利団体を含む)
企業に勤めると一括りに言っても、コンサルもあれば、製造業や投資家など本当にいろんなバリエーションがあります。
それで実際にやってみて、3日ぐらいで「先生駄目だった」という人はたくさんいます。大学4年生になる頃、「自分は何をしたら良いのか」と悩み、泣きながら相談に来る学生も少なくありません。
それは、周りに自分のやりたいことを明確に決めている人が多いからです。だからバブソン大学のキャンパスは、同調圧力がすごくて、皆がみんなチャレンジしているような環境です。
「彼も彼女もこんなことやってあんなことやって僕は何もしていない。どうしたらいいんだろう」みたいに思う人の多くが、4年生直前ぐらいに相談しに来ます。
キャリアに悩んでいる点では、日本の大学生も同じかもしれません。多くの学生が「自分の将来はどうすればいいのか」と手探り状態で、人に相談しながら考えています。
悩んだ時、人に話して考えるのは大切です。この記事を通して、キャリアに迷う人たちが少しでも共感し、前向きに考えてくれたらと思います。
日米で感じた学生の行動力の違い
ーーアメリカの大学は先生と学生の距離が近いと聞きますが、実際はどうですか?
ものすごく近いです。バブソン大学は特に近いです。
日本の大学では、教員のオフィスのドアは閉まっていることが多いと聞きますが、バブソン大学には「オープンドアポリシー」といって、常に自分の事務所のドアを開けておかなければいけないルールがあります。この環境に慣れず辞めてしまう先生もいるほどです。
日本の大学では教員に会いに行く機会は少ないかもしれませんが、バブソン大学では1日に何人もの学生が「アイデアを聞いてほしい」「こんなことを調べたんだけど」とオフィスを訪れます。提案をすると、1週間後には行動した結果を持って再びやってくる。
特別に賢くある必要はありませんが、積極的に行動することが求められます。
今までチャンスがあればどんどん引っ越してきましたが、バブソン大学での勤務は学生の方からぐいぐい来るので、まだまだ飽き足りていないです。
アイデアは人に話して磨かれる
スタートアップの多くは、初めから完璧なアイデアを持っているわけではありません。何度も試行錯誤し、人に話してフィードバックを受け、改良を重ねるのです。1人で考えるよりも他人の意見を聞くことで、より良いアイデアが生まれます。
自分1人の力ではなくて、他の人の意見も聞きながら考え続けるので、その分良くなっていきます。何か新しいことをして、常にフィードバックをもらうことなら誰だってできるんです。
例えば、ビジネスプランを書く際も、いきなり詳細に進めるのではなく、毎日のようにアイデアを話して改良する。100人に話すことで、100回分のフィードバックを得て、洗練された計画になります。バブソンの学生はその点が得意です。
これは極端な言い方をすると、日本とは真逆です。
行動せずに頭の中でたくさん考えて、失敗が怖すぎて自分で止めてしまうのが日本の悪いイメージです。一方で海外の人たちは、「やりすぎ」や「考えすぎ」と、周りの人に止められない限りずっと突き進みます。
クルト・レヴィンの「場の理論」で考える環境の重要性
チームを作っても、結局はメンバー1人1人との関係性が重要です。そして、個人の行動は、どのような環境にいるかで大きく左右されます。だからこそ、自分がどんな環境に身を置き、どのような人と時間を過ごすかが極めて重要です。
組織行動学の基本原理には、「*Behavior is a Function of Individual & Environment(行動は個人と環境の関数)」という考え方があります。簡単に言えば、私たちの行動は、その人自身の特性と周囲の環境が相互に影響し合って決まるということです。
*編集注
"Behavior is a Function of Individual & Environment"
➡︎個人の行動(B)は、その個人(P)と環境(E)の関数(f)である
一見当たり前のように感じますが、実際にこれを理解すると、環境の持つ影響力の大きさがよくわかります。
私たち個人にできることは限られていますが、どのような環境で過ごすか、どんな人と交わるかが行動や成長に強く影響を及ぼします。
環境が変われば人間関係も変わる
自分の状況がうまくいかないとき、環境のせいにする人もいます。しかし、環境の一部には自分の行動や言動も含まれていることを忘れてはなりません。つまり、環境のせいにするということは、自分自身の影響を無視しているのと同じです。
一方で、環境を自らつくることもできます。たとえば、自分が前向きな言動を心がければ、自然とポジティブな雰囲気が周囲に広がり、自分自身も前向きな環境を作り出せます。環境はまさに、自分の選択によって形作られているのです。
朱に交われば赤くなり、墨に交われば黒くなる
また、自分を成長させてくれる人たちと同じグループに身を置くことは、大きな利点になります。例えば、バブソン大学のように世界中から意欲的な学生が集まる場では、その環境が個人の成長を一層加速させます。
もちろん、どんな学校や組織にも、優れた人からそうでない人までの幅広い層がいるのは事実です。しかし、バブソン大学は特に、世界を変えたい、社会にインパクトを与えたいという志を持つ人々が集まりやすい環境です。
そこにいると、地球規模の問題やアイデアが日常的に議論され、成長のチャンスに恵まれます。そうした環境で学ぶことは、大きなアドバンテージです。
輪の中から飛び出してみよう!
同じように、与えられた環境の枠から一歩踏み出してみるのは、とても有意義なことです。
社会に出ると、部署や上司など、自分では選べないグループ分けがあるのは仕方のないことかもしれません。しかし、その状況に不満を抱えて腐るのではなく、自ら動いて外の世界に働きかけていくことが大切です。
そのまま受け身でいると、一生「他人がつくった環境」の中だけで生きることになってしまいます。少なくとも、週末には違う人と交流したり、仕事終わりに社外のコミュニティに参加してみたりしてみましょう。
普段とは異なる業界や、これまで触れたことのない環境に身を置いてみることは、大きな成長のきっかけになります。
[ 文:東濱理沙 / 編集:吉中智哉]
[写真:梨本和成 / デザイン:舩越英資]
\ 編集部PickUp /
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投稿者プロフィール
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探究ゼミでは、これから社会に出る人、出て間もない人向けにキャリアに関する情報を発信しております。仕事を通して人や社会と関わることを応援するメディアです。
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